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湯けむり若頭旅情編2 |
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案内された部屋は露天風呂付きの離れだった。 有名デザイナーが造ったという和洋折衷の部屋はモダンで広々としていた。窓からは海も見える。 「凄いねえ。よく部屋が取れたね」 「……コネを使いました」 案内の者が去り、部屋の探検に余念のない眞田を笑顔で眺めていた伊吹が、恥ずかしそうに言った。 繁盛期とずれているとはいえ、メディアでもよく紹介されている有名な宿だ。本来なら半年も前から予約しなければならないところを、無理にねじ込んでもらったのだそうだ。 「本当は、もう一つ連れて行きたい宿があったんですけど、特別室は押さえられているらしくて」 「十分だよ。凄くいい宿だ。部屋も広いし、ほら、海も凄く近くに見える」 「気に入りました?」 「もちろん!」 よかったと言い、心底安堵するように笑っている伊吹に、眞田も最上級の笑顔を返した。 文豪もよく利用したという旅館には、部屋付きの露天風呂以外にも大浴場が幾つかある。せっかくだから全部を堪能しようと、早速準備に取り掛かった。 「お腹空かせないといけないしね。まずは着替えようか。浴衣が選べるなんて面白いね。男性用のまで凄い種類あったし」 上着を脱ぎ、クローゼットに掛けた。チェックインする際に、数種類ある中から選ばせてもらった浴衣に袖を通す。薄墨色の地に歌舞伎柄という、粋なデザインが気に入って自分で選んだものだ。 「お風呂入って、食べて飲んで、またお風呂入って。夜は月見風呂。海も見えるし、最高だ」 ウキウキとしながら着替えている眞田の横で、伊吹も特大の浴衣を手にしている。濃紺地に変わり格子という柄は、伊吹に似合いそうだからと眞田が選んでやった。 「やっぱり似合うね」 「そうですか?」 「うん。身体が大きいからこういう派手な模様が凄く映える。恰好いい」 眞田の褒め言葉に伊吹が擽ったそうに笑った。 「史弘さんのそれも、……とても、いいです。なんか……」 お返しに褒めてくれようとしたのか、眞田の浴衣姿をまじまじと眺めた伊吹がそこで絶句している。 「なんだよ。ちゃんと褒めてよ」 「すみませ……っ、なんていうか、もう……」 褒め言葉の続きを待ってそう言ったら、今度は突然膝から崩れ落ちるようにして床に手をつくから驚いてしまった。 「ど、どうしたの? 大丈夫?」 ふうふうと肩で息をしている背中を擦り心配していると、息を荒げたままこちらに顔を向け、「うぅううう」と伊吹が呻いた。 「浴衣が、似合いすぎて……、こんな……姿を見られるとか、もう俺……生きててよかった……」 最後のセリフは音にならず、溜息と一緒に吐き出された。 大袈裟過ぎる伊吹の反応だが、本人にとっては全然大袈裟でないところが分かるだけに、いつものように笑ってしまう。 「そんなに似合う?」 「それはもう! 天女みたいです」 「またそんな……」 「いやもう、マジで」 真顔でそんなことを言ってくるのだから、苦笑するしかない。 「浴衣を着たぐらいでこんなに喜んでもらえるんだ」 「嬉しいです。こういうの、普段見られないし、凄く似合うし、綺麗だし、色っぽいし……。本当素敵です。もう、この世の者とは思えないくらいで」 畳の上に膝をついたまま、伊吹が懸命に褒め言葉を羅列する。 「あはは。ありがとう。そこまで喜んでもらうと、サービスしたくなっちゃうよね」 「……サービス」 跪いている伊吹の首をさらりと撫でる。浴衣の合わせの部分にスル、と掌を滑らせてニッコリと笑った。 「夜になったらもっと色っぽい姿になると思うよ?」 「……っ!」 「楽しみだな」 「お……っ、……っ、っ」 言葉を失いながら茫然と眞田を見上げてくる目が、ランランと輝いている。頭の中ではいろいろな光景が超高速で巡っているようだ。 「なんか今、物凄くやらしいことを想像してない?」 「し……、てませっ……」 「そうなの?」 「あぅ、すみません。してます……」 正直な答えに高らかに笑う。 「うん。僕も想像した」 「ぃ……っ」 「本当、楽しみだね。でもそれは後のお楽しみにすることにして、まずはお風呂に浸かりに行こうか」 「ええと、ちょ……、っと、待っ……」 からかうのはこれぐらいにしてと、早く大浴場に行こうと促すが、両手両足を床についたまま、伊吹が動かない。 「……すみません。外の風呂、今無理です……」 四つん這い状態で、伊吹が謝ってきた。 「このまま風呂行ったら大変なことに……。すみません」 五つ年下の元気な恋人は、元気さ故に、今のやり取りで俄かに興奮してしまったらしい。 「ええと……、どうしようか」 「すみません。本当、もう……すみません」 すまなそうに謝罪を繰り返す伊吹の側で自分もしゃがんだ。 「じゃあ、外風呂は後にして、部屋の露天で……遊ぶ?」 笑いながら伊吹の浴衣の合わせに手を掛け、胸元を開いた。 「ふ……、ぉ」 驚いた声を出している喉元に唇を近づける。 「でもせっかく着たのに、すぐ脱いじゃうのも勿体ないよね」 瑞々しい肌の弾力を確かめ舌先で擽ると、「く……」と喉仏が上下し、仄かに汗の匂いが香った。 凛々しい顔立ちと、逞しい身体と伊吹の匂い。どれも官能的で大好きなものだ。 「本当、浴衣似合うし。恰好いい」 顎にある薄い傷に舌を這わせながら、いきなりの眞田の行動に反応できず固まっている目の前の人を見上げた。 厳しく寄せた眉と、食い入るように自分を見つめている瞳に魅入られる。 「……僕も興奮してきちゃったかも」 「史弘さん……っ」 笑い掛けるとますます眉が寄り、大きな身体がガバリと覆いかぶさってきた。 眞田がしたように、伊吹も浴衣の合わせを乱暴に開いてきた。興奮は最高潮に達したようで、ふうふうと息を吐きながら、首筋にむしゃぶりついてくる。 「……ん、ぁ」 顎を上げて受け入れながら、畳に背中をついた。両腕を上げて太い首を抱き込み、キスをねだる。眞田の要求に応え、大きく合わさりながら、浴衣の裾を割り、掌が太腿を這ってきた。 「あ……」 触られる前からそこが熱を持ち、隆起しているのを知られ、恥ずかしさに横を向く。目を逸らしても、伊吹の視線がそこに注がれている気配を感じ、ますます感じてしまう。 「……ぁ、んん、ぅ……」 視線から逃れようと、閉じようとした足に手が掛かり、大きく広げられた。またじっと見つめられ、羞恥と興奮に苛まれていると、伊吹の身体が下りていき、下着の上からキスをされた。 「や……、ぁあ」 柔らかい刺激にそこが喜び、ますます興奮していく。さわさわと唇で撫でられ、固く育った茎を今度は唇で挟まれた。 「……可愛い」 下のほうで声が聞こえ、ズリズリと下着を下ろされる。全部を脱がないまま、先端だけ顔を出したソレをパクン、と含まれて身体が跳ね上がった。 「や……、やっ、龍之介さん、それ……は……」 一日中ドライブをしていて、眞田の身体も汗まみれだ。戸惑いの声を上げるが、伊吹の動きは止まらない。唇で挟み込み、チロチロと舌先で擽られた。背中が浮き、甘い声が上がった。 「ふ……、ぁあ、ん」 浴衣をはだけられ、下着も付けたまま、興奮した陰部だけを取り出されて可愛がられる。 「史弘さん、……凄く可愛いです」 「それ……、やめ……っ」 「やらしくて、可愛い……」 「もう……、龍之介さん、やだって……」 「すみません。でも可愛いから」 嬉しそうに伊吹が眞田の股間に話し掛けている。誘い、煽ったつもりが、結局自分のほうが恥ずかしい目に遭わされるのはいつものことだ。 「……濡れてきてます。凄く……気持ちよさそう」 ふ、と息を吹き掛けられ、もう一度含まれた。チュクチュクと音を立てて、啜られ、舐られる。 「……ぁ、あ、んんぁ……あ」 恥ずかしがろうが嫌がろうが、結局身体は正直で、喜んでしまうのだから眞田も伊吹を責められない。悪戯を仕掛けるつもりが、伊吹以上に自分が興奮していた。 不意に包まれていた唇が離れ、大きな身体が起き上がった。 「ん、……んぅ……」 なくなってしまった刺激が恋しくて、腰を揺らし、もっとほしいとねだる眞田を眺め、伊吹が嬉しそうに笑った。 「浴衣、本当に似合いますね」 「この状態でそれを言う?」 着たばかりの浴衣はすでにはだけ、すぐそこにある露天風呂にも入っていない。隣に用意されている寝室にすら行けずに畳の上で絡み合っている。 眞田の言葉に伊吹が笑いながら頷いたから、眞田も笑った。 「……想像したとおりになった?」 自分の上で笑っている伊吹に聞くと、凛々しい眉が下がり、目尻に皺が寄った。強面で他人からは怖がられるという伊吹が眞田だけに見せる、可愛らしい表情だ。 「想像以上です」 口づけを交わしながら、伊吹がまた眞田を喜ばせるセリフを吐く。 「でもこれで終わりじゃないだろう?」 「……史弘さん」 「もっと気持ちよくして……」 そんな伊吹だから、眞田も彼をもっと喜ばせたくなってしまうのだ。 誘うように身体を揺らし、自ら足を開いていく。 「夕飯までまだ時間あるよ……?」 甘い声に伊吹の眦が下がり、口元が綻ぶ。 「だから……、龍之介さん」 眞田の願いをなんでも叶えようとしてくれる年下の恋人に、もう一つ我儘を言って、その首を抱いた。 |
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