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うさちゃんと辰郎くん
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 帰り道、校門を出たところで、辰郎君に声を掛けられた。
 実力テストが近くなった今週から、大会の近いところを除いて、部活も短縮させられている。
「一緒に帰ろう」とも言わず、自然に並んで歩いているのが楽しくて、凄く嬉しい。
 あの初詣の夜から、僕と辰郎君の関係は、遠い存在のクラスメートから、よく一緒に行動する、仲のいい友達に変化していた。
 辰郎君は通学鞄の他に、大きな紙袋をぶら下げていた。
 マルガリータの紙袋だった。
 鞄に入りきらないくらいのチョコをもらって困っている辰郎君にマルガリータがくれたのだそうだ。
 毎年山のようにもらって、持って帰るのに苦労をしている辰郎君と、今年は俺の時代だと大きな紙袋を用意しているマルガリータ。
 辰郎君のそういう無頓着なところが可愛いなあって思って、マルガリータのそういう何を根拠にうかれるのか分からないところが哀れだなあ、ってまた思った。
「たくさんもらったね。食べるの大変そうだ」
「うん。だな。委員長ももらったんだって? 竹内が騒いでた」
「ああ、うん。でもほら、義理チョコだから」
 僕がそう言って笑うと、辰郎君は「そんなの違うかもしれないじゃん」と、ちょっと怒ったように言うのが可笑しかった。
「そんなわけないよ。部活の後輩だし」
「分かんないじゃん」
「これって、来月お返しした方がいいよね」
「さあ」
「さあ、って、辰郎君はしないの? お返し」
「しないよ。お返し出来ないから、って断った。中学んときまでは、おふくろが勝手に用意して渡せって持たされてたけど」
 辰郎君のお母さんの苦労を想像した。
「やあねえ」なんて言いながら、でもきっと楽しんで息子のチョコのお返しを用意していたんだろうなと思った。
 僕の母さんだったら、姉ちゃんと一緒になって大騒ぎをしたかもしれない。
「今年は用意してくれないの? 辰郎君のお母さん」
「いや。高校入ってから俺がやめてくれって言ってる。だってさ、やじゃん。お菓子持って学校とかウロウロすんの。サンタクロースじゃないんだからさ」
 大きな身体の辰郎君が小さなプレゼント包みを抱えて仏頂面でウロウロしている姿を想像して、ちょっと笑ってしまった。
「な? 間抜けだろ?」
 僕の方を見て、辰郎君が同意を求めてきた。
「宇佐さんは? 宇佐さんもくれたんでしょ?」
 宇佐さんは辰郎君の彼女第一候補だ。
 ちょっとした手違いと、僕の浮かれた勘違いで未だ進展はないようだったけど。
「もらったけど……でも、お返ししないよって言ったし」
「なんで?」
 吃驚してそう聞くと、辰郎君はちょっと怒ったように「なんででも」と言い切って、黙ってしまった。


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