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うさちゃんと辰郎くん
14

 チャイムが鳴って、辰郎君は僕にもう一度「じゃ、あとでな」って言って、自分の席に戻っていった。
 先生が来るまでの間に、マルガリータにしつこく聞かれてしまった。
 頑なに秘密にするのもおかしな話だし、結局僕はマルガリータに全部説明をしなければならなくなった。
 大学の図書館に行くこと。お昼はそこの学食で辰郎君に奢ってもらうこと。
 言葉にしたらたったそれだけのことだ。
 だけど僕にとってはとても大切で、本当に楽しみにしていたことだったから、誰かに話してしまったことで、ほんの少し、本当にほんの少しだけれど、残念な気持ちになった。
 もちろん、それでマルガリータが「俺も一緒に行く」って言ったら、いいよと言うし、僕は辰郎君と一緒にそうやって過ごせるだけで凄く嬉しいし、それが三人になっても同じ事だと思う。
 だけど、あのバレンタインの日、辰郎君が僕のチョコの事を気にしてくれて、僕のウサギを欲しがって、それから二人してチョコのアイスを食べた。
 その延長線での約束だったから、本当にすごくすごく楽しみにしていて、辰郎君もそれを楽しみにしていてくれていたんだって思うと、ほんのちょっとだけ、デートのような気分でいて……うぬぼれかもしれないけれど、もしかしたら辰郎君もそうだったいいなって、思っていたから。
「マルガリータも一緒にする? 試験勉強」
「んー、どうするかなあ」
 答えを聞く前に先生がやってきて、放課後の話は保留になった。
 休み時間に辰郎君の席に行って、そのことを伝えたら、一瞬僕の顔をじっと見て、それから「うん」って言って笑った。
「口すべらしたの俺だし。ごめんな」
「そんなことないよ」
「竹内来るって?」
「まだ聞いてない」
「そっか」
 短い会話だったけれど、辰郎君が謝ってくれたので、僕が今日のことをどんなふうに思っていたかってことを、ちゃんと分かっているんだなって思って、それが嬉しかった。
 辰郎君は僕の気持ちをきっと知っている。
 僕が辰郎君のことを――とても好きなことを
 知っている。
 そして僕は、辰郎君に聞いてみたい。
 宇佐さんからもらったチョコに、お返しをしないよって言った辰郎君は、もし、僕がチョコをあげたらどうしたんだろう。
 月曜からずっとそのことを考えていた。
 今も「ごめんな」って謝ったのは、どういう意味だったのか、とても聞いてみたい。
 二時間目のチャイムが鳴って、今度は僕が席に戻る。
 マルガリータはさっきの話を保留にしたまま前の席の染谷君と馬鹿話をしている。
 先生が教室に入ってきて、日直の「起立」の合図で全員が立ち上がった。
 窓に近い席の辰郎君の横顔が黒板に向けて直角にお辞儀をしている。
 放課後、大学の学食に行ったら、今度はうちの母が弁当を作ってくれるから、また一緒に勉強しようって誘おう。
 辰郎君はなんて答えるだろう。
 どんな笑顔をみせてくれるだろう。
 そして僕は、その笑顔を見て、何を思うのだろう。
 辰郎君が笑って、僕との次の約束をしてくれて……なにを期待するのだろう。


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