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うさちゃんと辰郎くん
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 週末になって熱が出た。
 辰郎君とのことに悩みすぎたからかも知れないと思ったら、インフルエンザだった。
 医者に行って、薬を飲んで、土曜と日曜寝て過ごした。
 月曜日になって熱は下がっていたけれど、学校は休むことになった。
「実力試験の後でよかったわね」と母さんは言ったけど、僕はそれどころじゃなかった。
 あの理科室で一緒にミジンコを見てからずっと、辰郎君と話せていない。
 放課後になればすぐに部活に飛んで行くのも、休み時間に僕以外に話しかけられるのもいつものことだったし、そういうときは僕を呼んでくれたりしていたのに、それがなかった。
 もっとも僕もなんとなく遠巻きにして、自分から寄っていかなかったってこともあったんだけど。
 冬休み前はそれが普通だった。
 前に戻ったって思えばそうなんだけど、やっぱり違う。
 辰郎君はクラスメートと話して笑っているのを教室の隅から眺めていて、羨ましいなとは思っていたけど、今は寂しいなって思う。
 唯一よかったことといえば、僕がそばに行かなかったから、辰郎君にインフルエンザを移さなかっただろうということだ。
 でも、そもそもインフルエンザに罹ってしまったこと自体、辰郎君とのことが原因にあるのかな、なんて思っている。
 きっと色々と悩みすぎて、心も体も弱っていて免疫力が落ちたんだろう。
 学校へ行っている間も、熱を出してうなされている間も、ずっと辰郎君のことを考えていた。
 初詣の夜以来、親しくなれて――すごくすごく親しくなれて、バスケの試合も観に行って、一緒に昼休みを過ごして、一緒に帰って、
 いろいろな約束をして、辰郎君はデートだって言ってくれて。
 僕の中の「辰郎くん比率」は大部分を占めているんだけど、辰郎君の中の「僕比率」も上がってくれているのが分かって、すごく嬉しかったのに。
 ぐるぐる考えて、だけど結局同じ結論に落ち着いてしまう。
 辰郎君に話していなかったのは悪かったかも知れないけど、それは不可抗力だ。わざと隠していたわけじゃない。
 それに腹を立てる辰郎君がちょっとおかしいと思うし、僕はそのことに腹を立ててもいいんじゃないか?
 僕だって辰郎君と一緒の大学に行けたら凄く楽しいと思う。三学期になってからその思いはひとしおだ。
 だけど、それとは別に、僕はやっぱりダニー先輩のいる大学へ進学したいと思う。
 合格するかどうかは別として、でも、それで辰郎君が腹を立てるのはお門違いだと思う。
 辰郎君、ちょっと心が狭くないか?
 ……って、本人に言えたらどんなにいいだろう。
 結局僕は一人で腹を立てて、一人でぐるぐる悩んで、熱まで出しちゃって。
 こんな思いをするくらいなら、あんな風に親しくならなきゃよかった……とは決して思わないんだけど。
 やっぱり僕の方から折れて話しかけるのがいいんだろうか。
 言わなくてごめんね、って謝って、それから僕がどうしてもあの大学に行きたいかってことをちゃんと説明して。だから怒らないでってお願いして。
 だってせっかく仲良くなれたのに、これからまだ高校生活は一年以上残っているのに。
 ……それに卒業しちゃったら、別々になってしまうのに。


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