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うさちゃんと辰郎くん
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「誘ってもらえるなんて思わなかったし。でも、僕も辰郎君とは話したかったんだ。お礼もしたかったし」
「お礼?」
「うん。文化祭のとき、いろいろ手伝ってもらったし」
 辰郎君とは正反対で、地味で目立たない僕なんだけど、そのキャラがどうにも真面目に見えるらしく、クラスの行事のとき、なにかと用事を任される。
 本人は言われるほど真面目でもないんだけど、雰囲気がいけないらしい。眼鏡をかけているのもキャラに拍車をかけている。
 入学してすぐのホームルームで、担任にいきなりクラス委員長に任命された。
 理由は「見た感じが委員長っぽいから」だそうだ。
 いい加減この上ない担任の任命のせいで、僕のあだ名はその日から「委員長」になってしまった。
 二年の今のクラスに変わっても、そのあだ名は変わらない。今は委員長じゃないんだけど。
 そして今年の文化祭で、僕は実行委員になってしまった。
 見た目は委員長でも、適正は全然そうではなくて、人を纏めて采配する、なんて芸当はとても出来なくて、散々な目に遭った。
 そのときに辰郎君が手助けをしてくれたのだ。
 あまりにバラバラで、しかもまるで実現出来そうにもない意見で混乱するクラス会議をまとめてくれて、しかも率先して手伝ってくれた。
 名前は実行委員でも、実際に動いてくれたのは辰郎君で、僕は彼のアシスタントのようなものだった。
 お陰で僕らのクラスでの出し物は大成功を収め、僕もとても楽しく充実した文化祭を経験することが出来たのだ。
「うちのクラス、みんないい加減だもんな」
 僕の感謝に辰郎君は笑って手を振っている。
「個性的なのが多いんだと思うよ? でもお祭り騒ぎは大好きなんだよね」
「言えてる。乗ったらすごかったもんな」
「うん。辰郎くんのお陰で大成功だった」
「そーんなことないって。俺も楽しかったし」
「うん。僕もすごく楽しかった。ありがとう」
 どんなことでも前向きに楽しもうと取り組める辰郎君のお陰だ。こういうところが凄く羨ましくて、僕が彼を好きなところだった。
「本当。お礼が言えてよかった。誘ってもらえて」
「委員長、真面目すぎ」
 辰郎君が可笑しそうに笑って手を振る。照れているみたいだ。
 いつものように「委員長」ってあだ名で呼ばれて、まあいつものことだから別にいいんだけど、メールにあったように「うさちゃん」って呼んでくれてもかまわないのにな、なんてちょっと思ったけど、それは言えなかった。
 夜の道は暗く、静かで寒かった。
 おまけに今日は大寒波がやってきていると、テレビのニュースで言っていた。
 メールをもらって飛び出してきた僕は、ダウンジャケットを着ているものの、手袋も帽子も忘れてしまった。
 息を吹きかけた手を擦り、ポケットに入れて温めながら歩いた。
 辰郎君もダウンジャケットを着ていたが、ニット帽とマフラーを身につけ、防寒対策は万全だ。
「これから行く神社、毎年初詣してたの?」
「あー、うん。中学までは地元の友達と集まってた」
 この界隈にずっと住んでいる辰郎君は、近所に住む友達と、毎年来ていたそうだ。
「夜中に外出れることなんてこんな時しかなかったし。出店もあって、タダでお汁粉配ってんだ。ガキんときはそれ目当てだった」
 辰郎君の話を聞きながら、二人ゆっくりと歩く。
 お汁粉食べて身体を温めて友達と話し、冷えるとまたもらいに行きまたしゃべる。火をおこしている周りに集まって、ぞくぞくと仲間がやってきて、朝まで飽きずに遊んだこと。
 年賀状が間に合わなかったと、その場で渡されて爆笑したこと。
 うちの高校でも明るく人気者の彼の、昔からやんちゃだった様子を聞くのは楽しかった。
「バスケは? 冬休み中ずっと行ってた?」
「ああ。五日に練習試合が入ってるしな」
「そうなんだ」
 部活が休みになるのは大晦日と三が日だけなのだそうだ。だけど辰郎君にはその五日間すら惜しいようだった。
 辰郎君が主将をするバスケ部はこの辺では結構強い。うちの高校でやる試合は何度か覗きにいったことはあったけど、他校には行ったことがない。
「今度観に行こうかな」
「来る?」
「うん。行ってもいいかな」
「もちろん。応援が多いと燃えるし」
「そうだよね。もっと早くから行っとけばよかったな」
 応援に行きたい気持ちはあったけど、呼ばれてもいないのに、一人で行く勇気はなかった。
 でも今日こうして誘ってもらえて、来てもいいよって言ってもらえて、嬉しかった。
「必ず行くよ」
 試合の応援に行く約束をする。
 学校がないときに、彼にまた会えると思うと、嬉しくて、思わずまた頬が緩んだ。



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