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うさちゃんと辰郎くん |
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僕の涙と怒りをよそに、辰郎君はまたごそごそと鞄をあさっていた。 「あのな」 鞄の中から冊子を取りだして、辰郎君が言う。 「怒ってたんじゃなくて。そりゃ、初めて聞いて驚いて、なんだよ、って思ったんだけどさ」 「うん」 「俺が知らねーのに、竹内が知ってのもしゃくだったし」 「ごめん」 「だいたいなんであいつはいつも邪魔するんだ?」 「知らない。なんかいつも、もれなく付いてくる」 「だよな」 マルガリータに関しては、辰郎君も僕と同じ意見のようだった。 「ま、竹内が言わなきゃ俺まだ知らなかったわけだし」 「それは、ごめん。僕、辰郎君が知らないっていうのを知らなかったから」 「うん。まあ、しょうがないよな」 「うん」 「でな。考えたわけ」 「なにを?」 僕の質問に辰郎君は黙って手に持っていた冊子を差しだした。 それは大学案内の載った本だった。 「あのとき、うさちゃん説明してただろ? そこの学校にどうしても行きたいんだって」 パラパラとそれを捲っている僕にむかって今度は辰郎君が説明している。 「すげえな、って思ったんだよ」 「そうなの?」 「うん。ほら、俺も竹内も上の大学にそのまま行くって、なんにも考えずに思ってたから」 「だいたいの人がそうなんじゃないかな。その為の付属だし」 「うん。そうなんだけど、でもうさちゃんは違うんだろ」 「うん」 「だからすげーな。って思ったの」 付属以外の学校を目指してうちに入学してきた生徒以外は、大概辰郎君のような考えを持っていると思う。 僕だって生物部に入って、ダニー先輩や他の先輩たち、先生に出会うまで深くは考えていなかった。 僕には進路を変えるきっかけがあっただけで、他の生徒とそう変わっている訳じゃないと思っている。 大学へ行ってから自分の道を決めることの方が多いんだと思う。 そういう点でいったら、僕はダニー先輩に出会えてラッキーだったと思うけど。 「で、うさちゃんはそこ目指すって決めてんだろ」 「受かるかどうかは分からないけどね」 「まあそうなんだけど。でも俺は何も決めてないから。だから決めてない方の俺が動いたほうがいいんだろうなって」 大学案内の冊子を広げたまま、辰郎君の話を聞いていた。 「まだなんにも決めてないんだけどさ。上の学校行って、そこで適当に資格とか取って、どっか就職するんだろうな、ってぐらいしかないし」 「普通はそうだと思うよ」 「でもうさちゃんはちゃんと将来のビジョンはあるんだろ?」 「うん。まあ、朧気ながら」 「こないだそれ聞いてて、いろいろ考えちゃってさ」 僕の手から冊子を取り上げて、僕と同じようにパラパラと捲りながら、恥ずかしそうに辰郎君が言う。 「なんか差ぁついちゃうなって」 「そんなことないよ」 「ちょっと恥ずかしかった。自分が。俺、なんにも考えてないなって」 そう言って、開いたページを僕に見せてくる。 それは僕の目指している大学の案内の載ったページだった。 「……今から頑張ったら、行けると思う?」 自信なさげに僕に聞いて、辰郎君はほわあ、って笑った。 「ここ受けるの?」 「無理かなあ」 「僕と一緒のとこ?」 「うん」 ほら、と、辰郎君が冊子を僕のベッドに載せて指を差す。 「ここの工学部受けるの?」 「無謀?」 ベッドに顎を付けるようにして、辰郎君が上目遣いに聞いてきた。 「担任に相談しにいったら、困惑された」 「無理だって?」 「いや。まだ一年あるし頑張ればなんとかなるんじゃないかって。でも、なんでだ? って聞かれた」 僕たちの通う高校は半分以上が付属の大学に進学する。もちろん成績で希望の学部にいけない人もいるけれど、バスケ部で主将もやりながら、常に成績は中よりも上を取っている辰郎君は、希望する学部に行けそうなのだという。 付属にも工学部があるのに、それを蹴ってまで、なぜそこに行きたいのかと、先生は聞いてきたという。 それは僕もそう思う。 「だってさ。うさちゃんはそのダニー先輩がいる学校にどうしても行きたいんだろ?」 「うん」 「それで頑張っているんだろ?」 「うん」 「俺は、うさちゃんと一緒の学校に行きたいもん」 「辰郎君」 「そういう理由じゃ、駄目?」 |
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