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うさちゃんと辰郎くん
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 胸に赤いリボンを付け、小さな花束と卒業証書の入った筒を持った先輩たちが校庭のあちこちで囲まれている。
 リフレインされる「旅立ちの日」のBGMに混じり、笑い声とすすり泣きが聞えていた。
 それでも別れを惜しむ雰囲気が、それほど切羽詰まっていないのは、ここがやはり大学の付属高校だということが大きいんだと思う。
 歩いて数分の大学校舎に行けばまた会えるという気軽さが、今日の卒業式をなごやかなものとしていた。
 小さな固まりがあちこちに出来、談笑している中で、なぜか辰郎君も囲まれている。
 制服のボタンは全部なくなって、ネクタイまで取られた模様。
 在校生なのに。
 制服はあと一年着なくちゃいけないのに。
 ボタンを付け直したり、新しくネクタイを買ったりと、辰郎君のお母さんは大変だなあ、ってその光景を眺めていた。
 僕の隣でマルガリータも一緒にそれを眺めていた。
 マルガリータの制服のボタンはぜんぶきっちりと付いており、当然僕も一緒だった。
「……辰郎、モテてんな」
「うん。凄いね」
「袖のボタンも引きちぎられてる」
「うん。袖、取れそうだね」
「あ、抱きつかれてる! いいのか? あれ」
「……あー」
 一人が抱きついたらあれよあれよとみんなが抱きつき、黒山の人だかりだ。
「運動会の棒倒しみたいだな。あいつでかいし」
「うん」
「先輩パワー恐るべし。ありゃ大変だあ」
 笑いながらマルガリータが気の毒そうに言っている。
「来年はもっとすごいことになるだろうな」
 今日がこの有様なのだ。来年はもっと大変なことになるだろうことは想像できた。ましてや辰郎君は付属の大学に行かない。
 来年、ここを卒業して、辰郎君は別の大学に進学予定だ。僕と一緒の学校へ。
 そしたら二人で……。
「委員長、なんか顔赤いぞ? まだ熱があるのか?」
「ん? そう? ここがあったかいからじゃない? 日も当たってるし」
「でも顔も変だぞ?」
「別に変じゃないよ」
「そ?」
 僕の顔をまじまじと眺めて、マルガリータはまた辰郎君のほうへと目を移した。
 群がった人たちが、そのまま記念撮影をしていた。
 背の高い辰郎君の腕にぶら下がるようにして捕まり、私も私もと群がって、辰郎君の周りに満面の笑みを浮かべた顔がいくつも並んでいる様子を、トーテムポールみたいだなと、のんびりと眺めていた。


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