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うさちゃんと辰郎くん
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「あの人がお前の尊敬するダニー先輩?」
 ふらふらと校門を出ていく先輩の後ろ姿を見送りながら、マルガリータが言ってきた。
「うん」
「変わった人だな」
「うん。でも天才なんだよ」
「ああ。なんか分かる気がする」
 マルガリータがやけに納得したような声を出した。
「……大丈夫なのか? なんか心配だぞ?」
「……うん」
 僕が運転出来れば送っていきたいところだけど、それも出来ない。ただただ無事を祈るばかりだ。
「いつもはもう一人必ず付いているんだけど。今日平日だし、きっと知らないんだろうね。先輩がここに来たこと」
 夏休みに先輩の研究の手伝いに行ったときも、うちの学校に来てくれるときも、いつも先輩の親友だという人がぴったりと付いてくる。
 先輩は天才なんだけど、こう、なんて言うか、自分の興味のあること以外は無頓着というか。
 研究成果でいくつも特許を取っているし、大学院を出た後も研究室に留まって、いまや「横山分室」なる自分のチームも持っている。
 だけど、その他のこととなると……すべてがああいう案配だ。
 十っこも年下の僕ですらこの人大丈夫なんだろうかと思ってしまう先輩を、その親友という人がいつも付きっきりでフォローしていた。
 本人に自覚がないから、今日みたいに単独で行動してしまう先輩だけど、そのあと絶対になにかしら騒動が起こってしまう。それを未然に防ぐため、周りが目を光らせていなければならないのだ。
 本当に天才なんだけどなあ。
 ダニー先輩が「今夜どうしても落としたい裏技」を使おうとした相手も、グーで殴った相手も、たぶんあの人だろうと予測は付く。
 どっちも気の毒だな、と、ふらふらと紙袋を下げて去って行く後ろ姿を見つめながら、溜息を吐く僕だった。



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