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うさちゃんと辰郎くん |
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先輩が校門から出ていった頃、辰郎君のトーテムポールサービスも終わっていたらしく、僕とマルガリータがいるところに帰って来た。 制服のボタンはもちろん全部なくなっていたし、ネクタイもない。ズボンのベルトまで持ち去られようとしたのを、必死に阻止したと笑って言った。 「来年の卒業式のために、ボタンいっぱい買っとかないといけないな」 マルガリータが真剣に自分の制服のボタンの数を数えてそう言った。 「替えの制服も用意したほうが、いいかなっ」 「いいんじゃない? 卒業式には体操着で出るといいよ」 「えー? そこまでぇ? 困ったなああ!」 僕の提案をまともに受け取って困っているマルガリータを見て、春だなあ、と思った。 「そだそだ。写真撮ろうぜ」 マルガリータが父親から無理矢理借りてきたという、最新式のカメラを出して誘ってきた。 「記念に」 「なんの記念?」 今日卒業するのは僕らじゃないし、明日も学校があるのに。 「まあまあ。なんでもいいじゃん。これ、凄えんだぜ? 一眼レフ付けるとあっちの窓の中とかばっちり覗けるし」 それは犯罪だよマルガリータ。 流行に敏感なマルガリータの親はやはり最新式が好きらしく、電化製品にも敏感らしい。 新しく購入したそのカメラを使いたくて仕方がないマルガリータに促され、僕と辰郎君が並んだ。 「はい、笑って笑って〜。んー、ちょっと笑顔が硬いね。じゃあ、脱いでみようか」 馬鹿を言って笑った隙に撮られてしまった。「じゃあ次、俺撮って」 貴重なカメラを渡され、使い方を教わり、ファインダーを覗く。 レンズに映る辰郎君が格好良かった。 写真が出来上がったらお金を払っても欲しいと思った。 「さっきの真似」 そう言って、マルガリータが辰郎君の胴回りにしがみつき、よじ登っている。 あ、羨ましい。 大きな辰郎君に蝉みたいにしがみついているマルガリータを撮って、カメラを返したら、辰郎君が「竹内、もう一枚撮って」と言いながら、僕においでおいでと手招きをした。 気前よくカメラを構えているマルガリータの前にまた二人して並ぶ。 ふいに辰郎君の腕が僕の背中とお腹に廻ってきて、ぎゅっと抱き締められた。 浮き上がるようにして腕の中にいる僕の顔の横に、辰郎君の顔がぴったりとくっついた。 「おー、仲いいねえ」 「だろ?」 「ちょ、ちょっと」 驚いている僕に辰郎君はますます笑って、「早く撮って」と言っている。 パシャリ、と軽い音がして、抱き合った二人の写真を撮られる。 撮影が終わったあとも、辰郎君は僕の身体に腕を巻き付けたままだった。 「さっきの先輩達にそういうサービスしてやればよかったじゃん。金取ったりして」 商売出来そうだなとふざけて笑うマルガリータに、「しねえよ」と、辰郎君も笑っている。 「うさちゃん限定のサービスだもんな」 辰郎君に抱き締められて、浮き上がった身体のまま仰いだら、大きな笑顔のままの辰郎君が、僕を見下ろしてきた。 |
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