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うさちゃんと辰郎くん
27

 先輩が校門から出ていった頃、辰郎君のトーテムポールサービスも終わっていたらしく、僕とマルガリータがいるところに帰って来た。
 制服のボタンはもちろん全部なくなっていたし、ネクタイもない。ズボンのベルトまで持ち去られようとしたのを、必死に阻止したと笑って言った。
「来年の卒業式のために、ボタンいっぱい買っとかないといけないな」
 マルガリータが真剣に自分の制服のボタンの数を数えてそう言った。
「替えの制服も用意したほうが、いいかなっ」
「いいんじゃない? 卒業式には体操着で出るといいよ」
「えー? そこまでぇ? 困ったなああ!」
 僕の提案をまともに受け取って困っているマルガリータを見て、春だなあ、と思った。
「そだそだ。写真撮ろうぜ」
 マルガリータが父親から無理矢理借りてきたという、最新式のカメラを出して誘ってきた。
「記念に」
「なんの記念?」
 今日卒業するのは僕らじゃないし、明日も学校があるのに。
「まあまあ。なんでもいいじゃん。これ、凄えんだぜ? 一眼レフ付けるとあっちの窓の中とかばっちり覗けるし」
 それは犯罪だよマルガリータ。
 流行に敏感なマルガリータの親はやはり最新式が好きらしく、電化製品にも敏感らしい。
 新しく購入したそのカメラを使いたくて仕方がないマルガリータに促され、僕と辰郎君が並んだ。
「はい、笑って笑って〜。んー、ちょっと笑顔が硬いね。じゃあ、脱いでみようか」
 馬鹿を言って笑った隙に撮られてしまった。「じゃあ次、俺撮って」
 貴重なカメラを渡され、使い方を教わり、ファインダーを覗く。
 レンズに映る辰郎君が格好良かった。
 写真が出来上がったらお金を払っても欲しいと思った。
「さっきの真似」
 そう言って、マルガリータが辰郎君の胴回りにしがみつき、よじ登っている。
 あ、羨ましい。
 大きな辰郎君に蝉みたいにしがみついているマルガリータを撮って、カメラを返したら、辰郎君が「竹内、もう一枚撮って」と言いながら、僕においでおいでと手招きをした。
 気前よくカメラを構えているマルガリータの前にまた二人して並ぶ。
 ふいに辰郎君の腕が僕の背中とお腹に廻ってきて、ぎゅっと抱き締められた。
 浮き上がるようにして腕の中にいる僕の顔の横に、辰郎君の顔がぴったりとくっついた。
「おー、仲いいねえ」
「だろ?」
「ちょ、ちょっと」
 驚いている僕に辰郎君はますます笑って、「早く撮って」と言っている。
 パシャリ、と軽い音がして、抱き合った二人の写真を撮られる。
 撮影が終わったあとも、辰郎君は僕の身体に腕を巻き付けたままだった。
「さっきの先輩達にそういうサービスしてやればよかったじゃん。金取ったりして」
 商売出来そうだなとふざけて笑うマルガリータに、「しねえよ」と、辰郎君も笑っている。
「うさちゃん限定のサービスだもんな」
 辰郎君に抱き締められて、浮き上がった身体のまま仰いだら、大きな笑顔のままの辰郎君が、僕を見下ろしてきた。


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