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うさちゃんと辰郎くん
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三月十九日

 今日は終業式だった。
 明日から休みだと思うと、いつもなら、やった、って気分になるのに、今はそうじゃない。残念だなって思う。
 早く新学期になって欲しい。
 マルガリータがこの前の卒業式の時に撮ってくれた写真をくれた。
 辰郎君と二人で並んでいる写真と、僕が写した蝉マルガリータの写真と、それから、二人で抱き合って顔をくっつけている写真と。
 この日記に挟んで、毎日眺めている。
 写真に写っている僕は、とんでもない間抜け顔だけど、隣にいる辰郎君がすごく笑っていて、すごく楽しそうで、すごく……二人が仲よさそうで、見る度に笑ってしまう。
 写真を眺めながら、不思議だなあって思う。
 去年の大晦日のあの日まで、僕と辰郎君はただのクラスメートで、それも、特別仲がいいってこともない、本当にただのクラスメートで。
 行事のときとか一緒に行動しても、僕は僕で、辰郎君は辰郎君で、やっぱり自分と仲のいい同士で集まっていたのに、今はなにかっていうと、二人でいる時が多い。……大概マルガリータも一緒だけど。
 休み時間になると、辰郎君は僕の机に来てくれる。弁当も一緒に食べようと誘ってくれる。
 この春休み、僕はミジンコ当番の日だけ学校に行くことになっているけど、バスケ部の主将である辰郎君はほとんど毎日部活だそうだ。
 そういうスケジュールも教えてくれて、休みの日に遊びに行こうって誘ってくれる。
「今度は二人でちゃんとデートな」って、そっと言われて、ちょっともう、なんかもう……辰郎君ってば、もう、もう、て感じだ。
 入学したときから、格好いい人だなって思ってた。
 同じクラスになれて、ラッキーって思ってた。
 別に卑下しているわけじゃないけど、きっと種類が違うんだなって思っていたのは確かで、だから遠い存在の憧れとして、遠巻きに眺めていた。
 それが、大晦日の夜からあの恥ずかしい大惨事をきっかけに、ちょっと距離が近づいて、いろんなことを話すようになって、バレンタインのときとか、ひょっとしたら……なんて思って、いやいやそんなことはないだろう、僕の考えすぎだろと思ってて、でも。
 二人の約束をデートだって言ってくれて、僕の見舞いに来てくれて、僕と一緒の大学に行きたいって言って、そのときに、辰郎君が僕の手を掴んで、キ……姉ちゃんに邪魔されて。
 これで自惚れるな、っていうほうがおかしいよね、なんて思ってみる。
 自惚れてもいいのかな。
 僕はずっと辰郎君のことが大好きだったけど辰郎君も僕のこと好………………………わー、どうしよう。
 一緒に住もうか、なんて言われたとき、辰郎君、確かすごいことを言っていたような気がする。
 なんか考えたって言ってた。
 やらしいこと考えたって言ってた。
 そりゃ、僕だって健全な高校生なわけだから、考えないこともないわけじゃないっていうか、考えるんだけど、いや、でも考えるだけで、そっ……。
 ……自分の日記なのに書けない。
 写真の辰郎君はすごく爽やかに笑っている。
 そんな顔で何を考えたんだろう。
 聞いてみたいけど、聞いたらすごい返事が返ってきそうで聞けない。
 聞いてみたいけど。
 なんか最近勉強が手につかない。
 こんな事じゃいけないと思う。
 僕には将来に向けて、ダニー先輩のいる大学にまずは合格しなければならないという目標があるのだ。
 頑張って絶対に合格する。
 辰郎君と二人で。
 一緒に住むとか。どうしよう。
 母さんに料理を習っておかないと。
 洗濯当番とか、掃除当番とか決めたりするのかな。辰郎君ってば料理出来るのかな。エプロン付けたりして。
 やだもう想像するだけで楽しい。
 春休みのデートは僕の行きたいところへ行こうって言ってもらっている。
 どこへ行こうか。
 何を着ていったらいいのかな。姉ちゃんに相談してみようか。でもきっと面白がって変なアドバイスをしてきそうだ。
 明日床屋に行こうかな。でも張り切ったって思われるのも恥ずかしいし。でもやっぱりちょっと伸びてるし。
 なにかプレゼントを買ってこようか。
 うさぎのストラップもチョコアイスもあげたけど、あれは辰郎君がちょうだいって言ってきたからあげたものだ。
 辰郎君は僕の為にストラップを探してプレゼントしてくれた。
 すごく嬉しかったから、今度は僕が自分で選んだプレゼントを渡したい。
 何がいいだろう。
 きっとなにをあげても喜んでくれるだろうとは思うんだけど。僕がそうだったように。
 母さんがご飯の前に風呂に入れって言っている。
 10時になったら辰郎君から電話が来る予定だ。
 その前までに全部をしておかないと。万全の態勢で。
 それまでに春休みどこへ行きたいか決めておこう。
 お花見とかどうだろう。母さんに頼んで弁当を作ってもらおうか。
 桜、いつ咲くかなあ。


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