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うさちゃんと辰郎くん
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 小さなお客の「ヨウちゃん自慢」は延々と続き、僕たちは苦笑しながらそれに付き合った。
「でもねー、もも組のゆうなちゃんもね、ヨウちゃんが好きなのね。ぼくとヨウちゃんが手をつないでたりすると、『エイッ』って切りにくる」
「そう。ヨウちゃんもてるんだね」
「うん。かっこいいからね」
 タカシくんというその子は、本当にとても自慢そうに、ニカ、と笑った。
「ゆうなちゃんはいじわるなんだよ。『男どうしでキスするのなんかおっかしい!』って言うの」
「そうなんだ」
「おかしくないよねえ!」
「……あー、うん。どうだろう」
「たぶんゆうなちゃんは二人が仲いいからやきもちをやいているんだろうな」
「うん。ぼくもそう思う。だからわざとゆうなちゃんの前でチューしてやるんだ」
 はは、って辰郎君が上を向いて笑い、「でもなあ」と続けた。
「羨ましがらせるためにチューはどうかなあ」
「そうなの? だっていじわるなんだよ?」
「意地悪なゆうなちゃんに、タカシくんは意地悪を返すためにヨウちゃんとキスするの?」
 辰郎君の質問に、タカシ君は首を傾げて「うーん」と言った。質問が難しいのかなと思いながら、僕も一緒に首を傾げてタカシ君の答えを待った。
「わかんない」
 しばらく考えていたタカシ君は、降参するように、小さく言った。
「俺はチューしたいときは、好きだなって思ったときだし、好きだって気持ちを伝えたくてするから」
 な、ってまた僕の方を向いて辰郎君が笑う。
 僕は顔が熱くなって、持っていた水筒を抱きしめる。
「あれは人に見せびらかす為にするもんじゃないよ」
「そうなの?」
「うん。ヨウちゃんとチューすることは別に変なことだと思わないけど、誰かのいる前でわざとすることもないと思うけどな」
「うん」
「タカシくんはヨウちゃんが大好きなんだろ?」
「うんっ」
「ヨウちゃんもタカシ君が好きでよかったな。両思い、おめでとう」
 タカシ君がぱあって笑って、大きくこっくりと頷いた。
 向こうの方で、タカシ君のお母さんと思われる人が呼んでいた。
 タカシ君は「はあい」と、元気な声で答えて立ち上がり、走っていく。
 シートを畳んでいるお母さんの側まで行ったタカシ君は、こちらを振り返り、大きく手を振っている。
 水筒を抱えたまま、僕も小さく手を振り返した。


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