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うさちゃんと辰郎くん
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「なあなあ、これ可愛くね? じゃね? じゃね? 可愛くなくなくね?」
 はしゃぎすぎて何を言っているのかよく分からないマルガリータが、僕の目の前にパンツを広げている。
 修学旅行の為の買い物に付き合わされていた。
 旅行は来月なのに。
 その前に実力テストとか、中間考査とか控えているのに。
 マルガリータの頭はそれを飛び越して、京都へ飛んでいるようだ。
 黒地にピンクのハート柄のビキニパンツを僕の前に広げているマルガリータは、恥ずかしいぐらいのはしゃぎようだ。
「やっぱ、こっちの熊さん柄かなあ。なあ、どっちがそそられる?」
 どっちも全然そそられない。
 ていうか、マルガリータ、君はいったいそのパンツを誰に見せようとして選んでいるの?
「楽しみだあ! 京都! 風呂、混浴だったりしねえかなっ」
 そんな学校があったらPTAに訴えられてると思うけど。
「にしてもズリイよな、女子だけ二人部屋とかさあ」
 部屋割りの関係で、僕たち男子は五人から十人の大部屋だけど、洋室のツインに入る生徒も何組かある。マルガリータはそれが羨ましくて仕方がないらしい。
「でも大勢の方が楽しいんじゃない? 修学旅行なんだし」
「そうだけどさあ。ほら、二人部屋だといろいろ出来るじゃん」
「いろいろって?」
「ほら、彼女連れ込んだり、いろいろいろいろだよ委員長ってば!」
 パンツを持ったままの手で背中を叩かれた。
「あーあ。俺が二人部屋なら同室のやつ追い出して、めくるめく京都の夜を過ごすのに」
 そういう君みたいな考えを持つ男子生徒が多いから、二人部屋にはさせらんないんだと思うよ。
「なあ、辰郎。辰郎だって二人部屋がよかったよな」
「うーん、そうだなあ」
 マルガリータの為のパンツを選びながら、辰郎くんが返事をした。「これなんか素敵すぎるんじゃね?」と、真ん中にキノコの絵の付いているパンツをマルガリータに渡している。
 春休みに約束したとおり、修学旅行は辰郎くんと一緒のグループになった。
 そして予想通りというか、危惧したとおりというか、マルガリータも一緒の班だ。
 自由行動でどこにいこうかという話し合いの段階で「そんなことよりまず買い物だ」と、連れ出されている。
「カメラも新調しないとな」
「こないだ凄いの持ってたじゃないか」
「あれ親父のだもん。自分のが欲しいじゃん。望遠で、暗視機能もバッチリな暗闇でも丸見えです。っていうカメラ買わないと」
 いつか警察に捕まらなければいいなとマルガリータの将来を心配する僕だった。



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