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うさちゃんと辰郎くん
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 マルガリータの京都の夜への期待は留まることを知らず、めくるめく夢の実現のために一生懸命パンツを選んでいる。
「買い物も大事だけどさ。どこ回るかとかも相談しようよ。計画表、来週中に提出だし」
 団体行動では清水寺や金閣寺に行くことが決まっているけど、その他の観光は自主性に任されている。交通手段を調べ、時間配分を考え、その計画表を提出しなければならない。
 訪れた土地の歴史なんかを勉強するのももちろんだけど、そういった自主的な計画を立て、社会性を育てることも、修学旅行の目的なんだろう。
「観光したいとこはひとつだけある。そこはどうしても外せない」
 マルガリータにそれほど興味の引かれる所があったのかと「へえ」と感心して「どこ?」ってきいたら、元気よく「鴨川」って答えてくれた。
「鴨川って……」
「あそこ有名なデートスポットなんだろ?」
「そうなの?」
「等間隔でカップルが抱き合ってるらしいぜ」
「ふうん」
「すげえ勢いで抱き合ってるらしい」
「どんな勢いなんだろう」
「ベロチューとか至近距離で見られるらしいぜ」
「別に見たくないけど」
「必見だよ。これなくして京都は語れないってぐらいの観光スポットだ」
「他に語る事はたくさんあるよ」
「いや、ない! 語らない」
「まあ語るも語らないもマルガリータの自由だし。勝手にしていいよ」
「場所待ちのカップルが後ろに並んでるらしいぜ。縦一列になって」
「本当に?」
「本当だ。俺も並びたい」
「並ぶんだ。一人で」
「是非とも見に行かなくちゃだな。つか、出来れば俺も参加したい」
「それ、計画表出しても学校が許してくれないと思うけど」
「うーん。難しいかなあ。夜だしな。黙って行くしかないか、な、辰郎」
「なんで俺が」
 マルガリータが辰郎くんを巻き込もうとしている。
「あ、あとあれも見たい。祇園さんとか舞妓はんとか。お座敷遊びしてみたい」
 出来ないことばかりを言うマルガリータ。
「それも学校が許してくれないよ」
「なんでなんだよ! 校長横暴だぞ。頭悪いんじゃないか?」
「向こうもそう思ってるよきっと」
「ああ、なんで俺はまだ高校生なんだろう。早く社会人になって座敷遊びがしてみたい」
「修学旅行に行けないけどね」
「でもまあそんなことは些細な問題で、どうでもいいんだよ。どこ回るとか、京都の歴史とかさあ。修学旅行の目的ってそんなことじゃないだろ?」
 他にどんな目的が?
 またどうせろくでもないことを言うんだろうと、黙って聞き流す事にした。


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