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うさちゃんと辰郎くん
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 マルガリータはそんな僕には構わずに、ち、ち、ち、と指を振り、にやりと笑っている。
 まったくサマになっていないし、行動も意味不明だ。
「要はどのタイミングで抜け出して、二人っきりになるかってことなんだよ。な、辰郎」
「それは言えるな」
 マルガリータのその意見には辰郎くんも賛成のようだった。
 そんな、辰郎くん。二人っきりとか。
「そこ一番大事だよな、辰郎」
「一番大事だ」
 意気投合している二人だ。
 辰郎くんも今回の修学旅行で楽しみにしていることがあるらしい。
 団体行動とはいえ、数日間一緒に旅行するという行事だ。旅行のあと付き合い出す人も多いし、すでに付き合っている生徒達も、修学旅行の間にさらに仲を深めるというか、進展するというか、愛を確かめ合うというか。
 ……愛を確かめるとか!
 なに言ってんの?
 自分で思い浮かべた言葉に狼狽してしまう。
「委員長どうした? 顔変だぞ」
「どうともない。変でもない」
 顔が赤くなるのを誤魔化すために、むやみにその辺に掛かっているカラフルなパンツを手に取ってみたりする。
 そりゃ僕だってすごく楽しみだし。
 去年よりもずっと楽しみな修学旅行になっているし。
 辰郎くんと付き合うようになって、初めての旅行だし。
 キス……だってした仲だし。
 二人っきりになれたらな、ってちょっと期待してるところもあるけど。
 でもどこに行くにも団体行動だし、グループ観光だってグループだ。部屋は大部屋だし、二人っきりになるチャンスなんてあるんだろうかと考えていた。
 だけど辰郎君とマルガリータはどうにか抜け出す機会がないものかと、二人で相談し始めた。
「点呼とったあとも何度も見回りにくるらしいしな。そこの間隙を縫って抜け出さないと。見つかったら廊下に正座をさせられるらしいぜ」
「廊下に正座はいやだな」
「だろ? 作戦練ろうぜ、辰郎。委員長協力してくれよな。抜け出してもチクったりはなしな」
「そりゃまあ、そんなことはしないけど」
「話の分かる委員長でよかったよ、な、辰郎」
 さっきからマルガリータ、僕を全然かやの外に置いて話をしているけど。
 まるっきり僕を部屋に置いたまま、自分たちだけ部屋から抜け出そうとしてるけど。
 そして辰郎くんだけに相談してるけど。
 だいたいマルガリータ、彼女いないじゃないか。部屋から抜け出して、一人でどこへ行こうとしているんだろうか。
 ちょっと不思議に思う僕だった。


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