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うさちゃんと辰郎くん
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「まずは宿泊施設の見取り図をゲットしてだな。そこで隠れられるところを見つけるわけだ」
 マルガリータの綿密な計画の説明が始まる。
「先輩に聞いた話だと布団部屋ってのがあるらしい。暗いし、布団があるから一石二鳥だ」
 その顔は今まで見たことのないくらい真剣で、目が輝いていた。
「問題は毎年潜り込む生徒が何人もいて監視の目が厳しいということだ」
「じゃあ駄目じゃん」
「だなっ」
「屋上も旅行中は上がれないように鍵をかけるって」
「四面楚歌だな」
「やっぱり外に出るしかないか。鞄とか座布団とか布団に入れといてカムフラージュして」
「点呼取るんだろ?」
「そうかっ。委員長、俺と辰郎の声真似出来る?」
「出来ないよ」
 やっぱり僕だけ置いていくし。
「誰か身代わりを置いていくか。弟とか連れて行こうかな。声も似てるし」
「そこまでして?」
 マルガリータのその情熱を他に向けたらいいのにと思う。
「夜中の二時とかなら先生もさすがに寝るな。それを待つか?」
「そんな遅い時間?」
「それしかないな。ただ問題はその時間まで自分が起きてられるかってことだ」
「寝てるだろうね。確実に」
 うーん、と重大な問題に頭を悩ませているマルガリータがだんだん哀れに思えてきた。
「ていうかさ、そこまで苦労するんだったら、なにもわざわざ修学旅行中に危険を冒さなくても、普通の日にお互いの家とか行けばいいんじゃない?」
 僕の意見にマルガリータがハッとしたような顔をした。
「そうかっ!」
「ていうか、その前にマルガリータは彼女いるの?」
「それがいないんだよ〜。そこが実は一番の問題なんだよなあ」
 その問題をまずクリアしないとどうにもならないじゃないか、っていう言葉は可哀想なので言わないことにした。
「でもせっかくの修学旅行じゃん? なんかこうさあ、めくるめくようなものにしたいじゃん? こうさああ、忘れられない思い出っていうかさあ」
 その気持ちは分からないでもない。
「まず彼女を作るところから始めるか」
「普通そこからだろ。竹内」
「だよなあ」
 結局めくるめく修学旅行計画は計画倒れのまま頓挫して、僕たちはマルガリータのパンツを選ぶ作業に戻ることにした。
「お、これなんかいいんじゃないか、竹内。お前にぴったりだ。これはそそられるぞ」
 そう言って辰郎くんが探してきたパンツにはたけのこの絵が描いてあった。
「確かに! そそり立ってるな。でも俺のはこんなもんじゃないぜ」
 たけのこのパンツを囲んで三人で笑った。
「よし、決めた」
「たけのこ?」
「ちげーよ。俺は来月までに彼女を作る。めくるめく修学旅行のために! 見回りの間隙をぬって布団部屋でしっぽり計画! 絶対やりきってみせる」
 決心と意気込みは立派だけど、それってどこか本末転倒というか、目的を見失っている感があるんだけど。
「おー、頑張れよ。応援するぜ」
 辰郎くんが無責任に背中を押している。
「ありがとう、辰郎。俺頑張るよ。そして決戦の日には一緒に抜け出そうな」
「うーん。どうだかな」
 またマルガリータが僕を置いてけぼりにして辰郎君だけを誘った。
「やだ辰郎。裏切る気?」
「だって竹内の計画に乗ったら碌なことにならない気がするもん、俺」
 それは言えてる。
「えー、布団部屋は? 鴨川で一緒に並ぼうよぉ」
「並ばねえよ」
「お座敷遊びは?」
「それは無理だって、マルガリータ」
 嘆いているマルガリータに聞こえないように、辰郎くんが内緒話をしてきた。
「てことで」
「なに?」
「これからうさちゃんちに行ってもいい?」
 悪戯っぽくニカッって笑った辰郎くんが僕の顔を覗いてきた。
「今言ったじゃん。修学旅行待たなくても家に来ればいいって」
「え?」
「言ったよね?」
 尚も悪戯っぽく笑った辰郎くんが僕んちに来たいって言っている。
「あの……今日?」
「うん。今日。これから。行きたい。駄目?」
「いいけど……でも」
 心の準備というか、そういうのまだ出来てないんですけど。
 てか、心の準備とか、僕は何を考えてるんだ。
 辰郎くんはただ家に来たいって言ってるだけなのに。
 でもでも、こないだキスした仲だし。
 辰郎くんとしては、次の段階に行きたいのかな、なんてちょっと思ったりして。
 僕ってば考えすぎ?
 パンツを握りしめたまま、オロオロと考え込む僕。
「なになに? 委員長んち? 行く行く。俺もお呼ばれしーたーいー」
 地獄耳のマルガリータだった。


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