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うさちゃんと辰郎くん
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「うまい。このケーキ、激うまっ」
 母さん自慢の特製チーズケーキを食べた辰郎くんが叫んだ。
 中間考査のお勉強会を開催している。
 僕の家で。
 辰郎くんがどうしても一緒に試験勉強がしたいって言ったから。
 ……どうしても、とか。
 もう、やだなあ。
 試験前の猶予期間に入って、部活も切り上げられている。
 授業が終わって二人して電車に乗って、二人で僕の家に帰ってきた。
 マルガリータは今回不参加だ。エロビ鑑賞会でも修学旅行計画でもない、ただの勉強会には全然興味がないらしかった。
 外部受験を目指す僕たちはもちろん、付属の大学を目指す生徒にとっても、三年になっての最初の試験はとても大切なんだって先生も脅してくる。
 付属進学から急遽外部受験に切り替えた辰郎君にとっても、すごく大事な試験ではあるんだけど。
 一緒の大学を目指す僕たちにとって、一緒に切磋琢磨し合いながら勉強することにはもちろん異論はない。
 一緒に頑張って、一緒に合格して、一緒に住んで……。
 ああもう、なんかもう、勉強が手に付かないんですけど。
 いや、こんなことじゃいけない。
 僕たちには大学受験っていう目の前の目標があるんだから、煩悩は押しのけて、楽しみはあとに取っておくことにして、とにかく試験だ。今の中間考査を乗り越えないといけない。
 なんて、一人で決心している目の前で、辰郎君がチーズケーキを幸せそうに頬張っている。
 ニコニコしながら大口開けて食べているのが可愛いんですけど。
 友達と試験勉強をするって聞かされた母さんが張り切ってケーキを焼いてくれた。
 母さんの作るチーズケーキは僕も大好きだ。
 ちょっと酸味のあるケーキにラズベリージャムを付けて食べるのが家の定番なんだけど、辰郎くんは初めてらしくて凄く感激してくれて、前の弁当のときみたいにパクパクと食べている。
 母さんも喜ぶだろうと予想した。
「そう? もう一切れ切ったげる? 大きいの作ったから。嬉しいわあ」
 目の前にいる母さんが予想通り喜んだ。
「こないだの花見弁当も美味しかったっす」
 試験勉強なんだけど。
「ああ。全部食べてくれたんだって、嬉しいわ。ありがとう」
 二人で勉強するために家に来てるんだけど。
「今度またなにかあったら作るわね。喜んでもらえると作りがいあるし」
 来るなりケーキを持ってこられて、すぐに食べさせられている。
「本当っすか? また食べたいです」
 ニコニコしながら辰郎くんの食べる様子を母さんが眺めている。
「辰郎くんは何が好き?」
 まだペンケースすら出していない状態だった。
「なんでも食べます」
 いつになったら二人っきりになれるんだろう。
「じゃあ、今度持たせるわね」
 いや、そうじゃなくて、二人っきりとか。別に母さんが邪魔だって言っている訳じゃないんだ。ただ、いつになったら勉強を始められるのかなっていう意味で。


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