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うさちゃんと辰郎くん
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一月五日 晴れ

 今日、辰郎君のバスケの試合を観に行ってきた。
 かっこよかった。
 すごくかっこよかった。
 よその学校に入っていくのに気が引けたけど、行ってみたらうちの学校の生徒がけっこう来てて、安心した。本当にもっと早く行けばよかった。
 朝、辰郎君からメールが来て「待ってます」って書いてあって、しかも「うさちゃんへ」って書いてあって、なんかもう、もう、もう、って感じだった。
 でもわざわざメールをしてくれたのが嬉しかった。
 年越しの夜に、試合を観に行くと約束はしたんだけど、本当は少し迷っていた。
 あのときは興奮もしてたから、絶対に行く、なんて言ったんだけど、日にちが経ってよく考えてみたら、やっぱり僕が行くのは変じゃないか?なんてまた自意識過剰が働いて、どうしようかなって思っていたから、だからメールをもらってよかった。
 朝ご飯を食べているときにメールがきたものだから、にやけてしまった僕の顔を見て、姉に「気持ち悪い」って言われ、母にインフルエンザを疑われ、危うく医者に連れて行かれそうになった。
 今度からは家族の前では携帯を開かないようにしようと思う。
 応援には女子バスケ部も来ていた。
 三組の宇佐さんも来ていた。
 せっかくの初詣デートを邪魔してしまって申し訳なかったなと思い、心の中で手を合わせた。
 ……っていうのは嘘で、これは僕の日記だし、誰に読まれるわけじゃないから本音を言うと、辰郎君がメールの宛先を間違えて、勘違いしたと気が付いた時は、本当に顔から火が出るぐらい恥ずかしかったけど、今は間違って僕に送ってくれて、ラッキーだったなって思う。
 それがなかったら、僕は今日辰郎君の試合に行くなんてことは絶対になかったろうし、メールで「待ってる」なんて言ってもらえることだってなかったわけだから。

 と、ここまで書いたところで、辰郎君から電話がきた。びっくりした。
 試合を観たあと、僕が待っててくれると思ったって言われた。
 あのあとみんなでラーメンを食べに行ったそうだ。
 えー、残念。もうちょっといればよかった。
「試合どうだった?」って聞くから「すごくかっこよかった」って正直に答えたら、電話の向こうで辰郎君は笑っていた。
 たぶんこの前の初詣のときみたいに、照れて手を振っているんだろう。
 特に試合終了間際に辰郎君が入れたシュートで逆転したときには感動したって伝えたら
「諦めたらそこで試合終了だからな」
 って言われて、また感動した。
 とっさにそんな言葉が出るなんて、やっぱりかっこいいなと思った。
 今度から僕の座右の銘にしようと思う。
 この次の試合のときは、一緒にラーメン食べようと誘ってもらえた。
 楽しみだ。
 三年になったら、夏休みまでで部活は引退になる。
 あと何回、辰郎君の試合が観られるだろう。
 何回一緒にラーメンが食べられるだろう。
 でも不思議だ。
 つい、この間まで、同じクラスであっても、彼とはほとんど接点はなくて、あの間違いメールがなければ、たぶん僕は一度も辰郎君の試合を観に行くようなことはなくて、ラーメンだってきっと一度も食べることはなかっただろう。
 そう思うと、すごく不思議だ。
 試合が始まる前、ウォームアップをしながら、二階にある観客席を見上げた辰郎君が、僕を見つけて、笑った。
 メールまでくれたぐらいだから、僕が本当に来たのか確認しただけなんだろうけど、でも同じ学校の生徒も、もちろん女子バスケ部の人達もいたのに、まっさきに僕を探してくれたみたいに見えて、まあうぬぼれかもしれないんだけど。
 でも、僕を見つけた辰郎君が、本当に嬉しそうに笑ってくれたのを見て、なんていうか、うまく言えないんだけど、こう、すごいことが起きたっていうか、本当に感動した。
 こんなふうに言ったらきっと大袈裟だとか、真面目だとか言って、辰郎君は笑うだろうけど、でも本当にすごいって思ったんだ。
 新学期まであと一週間。
 早く始まらないかなと思う。これほど学校に行くのが楽しみだと思ったのは初めてだ。
 学校行って、「うさちゃん」なんて言われたりして。
 困るなあ。どうしよう。
 その呼び方は二人でいるときにしてって頼もうかな。
 ……って、二人でいるときとか、そんなのたぶんないし。
 初詣から帰って来たのが朝だったので、そのあと僕は寝てしまって、そのときに夢を見たんだけど、あれが初夢ってことになるんだろうか。
 夢の中に辰郎君が出てきた。
 初夢はこれからの一年を占う夢だっていうし、いい夢を見ると正夢になるって話も聞くけど本当だろうか。
 いや。
 いやいやいや。それはないだろう。
 確かにとてもいい夢だったけれども。
 正夢とかあり得ないし。
 ついさっきまで一緒にいたから夢に出てきただけなんだろう、きっと。
 夢の内容は……。
 ちょっと、いくら自分の日記でも、これは書けない。
 それに人に話したりすると、正夢じゃなくなるっていうし。
 いやだから、別に正夢になってとか思っているわけではないんだけど。
 自分の日記なのに、僕はいったい誰に対して言い訳をしているんだ?
 ここ何日か、ちょっと自分が恥ずかしい。
 嬉しいこともあったけど、恥ずかしいことばかりだ。
 あの夢も恥ずかしかった。すごく。
 また見れるかなあ。
 いや、いやいやいや、だから見たいとかじゃなくて。
 今日辰郎君の試合とか観ちゃったし、さっき電話で話したりしたから、また見る可能性あるかも、とか。ただそう思っただけであって。
 だから僕はいったい誰に言い訳をしているんだろう。
 今日はもう寝ることにする。
 別に早く寝て夢が見たいからとかじゃなくて、ちょっと疲れたから。
 いい夢が見れそうだ。


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