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うさちゃんと辰郎くん |
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しばらくの間、雑談もせずにお互いに集中する。 ページを捲る音と、シャーペンのコツコツという音だけが部屋の中に響いた。 「終わったぁ」 シャーペンをパタンと小さく放り投げて、辰郎くんが伸びをした。 「終わった?」 「俺すげえ頑張った」 「そう」 「答え合わせして」 「うん」 渡されたノートと問題集の回答欄を受け取って答え合わせをする。 辰郎くんの字は本人と同じ、大きくて元気がいい。 丁寧に赤ペンで丸を付けていく。 緊張の面持ちで僕の手元を眺めている辰郎くん。 僕も緊張した。 「どう? 百点?」 恐る恐る辰郎くんが聞いてきた。 「……三問、間違ってた」 「あーーーっ!」 この世の終わりのように嘆いた辰郎くんがバッタリと倒れた。 「頑張ったのに」 「辰郎くん」 「これ以上ないってくらい頑張ったのに!」 倒れたまま悶絶している辰郎くんの側まで行って、上から覗く。 「ご褒美がぁ。もらえない」 「僕、全問正解だった」 「いいなあ。俺三問間違えちゃったよ」 「あのさ」 「なに?」 「僕はもらえないのかな、褒美」 辰郎くんの嘆きがピタリと止んだ。 「褒美……くれんの?」 「違うよ。全問正解したの、僕の方だし」 「そっか」 「僕も頑張った。だから褒美欲しい」 寝転んだままの辰郎くんの腕が伸びてきて、僕の頭に触れてきた。 大きな手に包まれて、そのままそっと引き寄せられる。 辰郎くんの顔の横に手を付いて、ゆっくりとその力に従った。 パタパタと階段を駆け上がる音がして、ノックの後にドアが開く。 ……こんな展開だとは思ったんだよ。 お約束っていうのかな。 母さんが部屋に入って来たとき、僕はもとの位置でシャーペンを握っていて、辰郎くんは寝転んだままだった。俯せに。 「あらまあ。寝ちゃったの?」 母さんが暢気な声を出して笑った。 「辰郎くん、今日もお夕飯食べていくんでしょ?」 「さあ。分からないけどたぶん」 「お家で用意してないかしら」 「前のときも電話で言ったら大丈夫だったみたいだし」 辰郎くんの家では欠食児童の一食分が浮くことは大歓迎らしかったし。 「ちょっとお買い物行ってくるけど」 「あ、いってらっしゃい」 「田中さんに誘われてお茶もする予定だから、少しだけ遅くなるけど」 「全然構わないよ」 「そう?」 むしろとても嬉しいような。 「辰郎くんがいるからお留守番も平気よね?」 「母さん……」 辰郎くんが居なくても一人で留守番出来るよ、僕だって。 急に呼び出されたらしくて、慌てて家を出る母さんを玄関まで見送って部屋に戻ると、辰郎くんが僕のベッドに潜り込んで待っていた。 |
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