INDEX |
うさちゃんと辰郎くん |
53 |
突然冬が来ていた。 ついこの間まで暑い暑いって文句を言いながら、学校の帰り道、我慢出来ずに自販機で冷たい飲み物を買っていたのに、今はそれが温かい缶コーヒーに変わっている。 どこが境目だったのかは思い出せないけど、半袖で汗を滲ませていた僕たちは、マフラーに顔を埋め、白い息を吐きながら歩いていた。 学校から駅へと続く道の中、居並ぶ店には赤や緑やゴールドの飾りが施され、夕方になれば、木々がチカチカと点滅している。 世間は楽しいクリスマス。 僕たちにとってはそろそろ正念場がさしかかっていた。 高校生活においての楽しい行事はすべて消化され、僕たちの周りは受験一色に染まっている。進路によって教室が分けられ、先生の話も真剣味を帯びてくる。 大学の付属である僕たちの高校だけど、半数は外部を受験する。 たまに卒業前に車の免許を取りたいなんていう、のほほんとした話題も飛び出すけれど、なんとなくそういう浮ついた話題は鳴りを顰めているような状態だった。 僕と辰郎君はときどき図書館で一緒に勉強したり、僕の家に辰郎君が勉強をしにやってきたりする。マルガリータは最近は遠慮するよと言って、来ない。そろそろ僕たちが、マルガリータのおふざけに構ってやれないという空気を感じ取っているらしい。 辰郎君は相変わらず、僕のノートにいたずら書きをしたり、家族の目を盗んでちょっかいをかけてくる。 授業はほとんど学科別の選択授業になっており、美術、音楽、体育といった授業は短縮され、僕はビクビクしながら体操服を着るということがなくなり、ちょっとホッとしている。 悪戯好きで、なんでも楽しめる辰郎君は、それでも切り替えが上手いらしく、部活を完全に辞めた夏からメキメキ成績を上げてきて、つい先月の全国模試ではギリギリながらもAランクを取ってきた。まったく凄い人だ。 僕はというと、ここ最近不調気味で、同じに受けた模試で初めてBランクに下がってしまった。担任は周りが頑張り出したから仕方がない、地力はあるのだから大丈夫と慰めてくれたけど、僕はしばらくショックから立ち直れなかった。 「うさちゃん、行こう?」 授業が終わって鞄に教科書をしまっている僕を、辰郎君が迎えに来た。 今日は一緒に図書館に行く約束をしていた。 来週に行われる大手塾が主催する模試に、二人で行くことになっている。 センター試験の前本番と称されるその模試は、受験者数が最も多く、それの結果はかなりの目安になる。そこでAランクを取ったからといってもちろん合格が約束されるわけではないが、やはり自信にはなる。 僕としてはなんとかそこで挽回したいという気持ちが強かった。 |
novellist |