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うさちゃんと辰郎くん
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 辰郎君は苦手な古文を広げ、すぐに飽きたと僕にちょっかいをかけてきた。僕が叱ると今度は得意の数学の問題に取り組み、しばらくは静かだったが、やはり長く続かず、別の教科を勉強し出す。
 散漫なようで、集中するときはきっちりと集中できるらしく、彼の問題集は僕の付けた赤丸でいっぱいだった。
 僕は辰郎君ほど切り替えが上手くなくて、辰郎君が飽きると気を遣い、集中しているときでさえ、彼のことが気になって、一向に進まなくて困ってしまった。
 家で一人勉強をしているときでも、気が付くとボーっと考え事をしていることが多く、慌てて問題集に取り組むが、すぐに集中が切れてしまう。机に向っている時間だけは長いけれど、効率は悪く、それでもしないよりはましと夜遅くまで机にかじりつき、結局寝不足で頭が働かないという、悪循環に陥っていた。
 学校の先生も塾の講師も僕の真面目さを知っているので、それほど心配をしていない様子だ。だけど、僕は自分のことを分かっているので、この先がとても心配だった。
「今度の土日、また一緒に勉強する?」
 帰りながら、辰郎君が僕を誘ってきた。
「う……ん」
 辰郎君と一緒にいられるのはもちろん嬉しい。
 だけど、来週に控えた模試が気に掛かって、ぼくは曖昧な返事をした。
「どうしようかな……」
 今まで誘われて断ったことはない。今になって急に駄目だって言ったら、辰郎君が気を悪くしないだろうかと、答える声が小さくなる。
「僕、この間の模試の結果が悪くて。それで……、ちょっと集中しないといけなくて……」
 こういうのって言い訳に聞えるだろうか。
 僕の成績が上がらないのは辰郎君のせいじゃない。
 そりゃ、たまにちょっかいをかけてくるけどそんなにしつこいこともないし、現に辰郎君はどんどん成績を上げている。
 うまくいかないのは、僕が不器用なだけなのだ。
 しどろもどろになりながら、どう言ったらいいのか自分でも分からなくて、口籠もっている僕を、隣に並んだ辰郎君がじっと見つめている。
「うさちゃん。もしかして俺、うさちゃんの邪魔してた?」
「そんなことない!」
 ブンブンと首を振って否定する僕を、辰郎君が真剣な顔で見つめている。
「僕が集中力が足りなくて。辰郎君がどうとかじゃなくて」
「うん。でも……」
「本当。僕が悪いんだよ。辰郎君」
「誰が悪いとか、そういうのじゃないだろ?」
 僕が、僕が、と言い募る僕に、辰郎君が言ってきた。
「でも、辰郎君はちゃんと成績を上げてきて、この間なんてAランク取って。一緒にやってるのに……」
 僕は成績が下がっちゃって。不甲斐なくて情けなくて、そして悔しい。


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