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うさちゃんと辰郎くん
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「学校では会えるんだし」
「でも……」
「取りあえず、来週の模試が終わるまでは、な?」
 慰めるように顔を覗かれて、僕は小さく頷くことしか出来なかった。
 確かに、僕たちの第一の目標は、受験に受かることだ。
 今、感情に流されてどちらかが、また、どちらとも落ちてしまったりしては、本末転倒だと思う。
 だけど寂しい。
 学校でも、放課後も、休日も、ほとんど一緒に過ごしていた辰郎君と、受験が終わるまで一緒にいられないなんて。
「うーさちゃん」
 頷いたまま、俯いてしまった僕を、腰を屈めた辰郎君が下から覗いてきた。
「僕が辰郎君みたいに『ガッ』ってやれるタイプだったらよかったのに」
「うーん。でもうさちゃんはうさちゃんのペースでゆっくり着実にやってるのがいいと思うよ? そういうところがすごく強いんだなって思うし。そういうのが可愛いし、好きだ」
「好きとか……」
 辰郎君、ちょっともう。そういうことをさらっと言わないでほしい。
 下を向いたまま、にやついた顔を見られてしまった。
「お互いに自分のペース守って、頑張ろう」
「うん」
「でもな」
「うん?」
「ほら、目の前の人参がなくなると、今度は俺が調子崩す懸念があるわけよ」
「ああ。それは困るね」
「だからさ」
 僕の顔をじっと見ていた辰郎君がニパっと笑った。悪戯っ子のように。
「取りあえずは次の模試まで我慢するから」
「来週の?」
「そう。俺、頑張るから」
「うん。僕も頑張る」
「終わったら、頑張った褒美くれる?」
 見返す僕を、辰郎君が悪戯っ子みたいな顔で見つめてくる。
「……褒美?」
 褒美って……。褒美って……。
「人参がないと走れない、俺」
 子どもみたいに駄々を捏ねている。
「どんな褒美もらおうかなあっ!」
 僕は来週の模試までに集中力を取り戻せるだろうか。
 全国模試は来週の日曜日。
 クリスマスの日だ。


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