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うさちゃんと辰郎くん |
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電車から降り、人の波に一緒になって流される。日曜の夜、カップルが向う先はきっと僕たちと同じ場所だろう。 ビルが建ち並ぶ賑やかな駅前を通り過ぎると、突然景色が変わった。 「……わぁ……」 光に飾られた木々が、広い道路の両脇に並び、ずっと先まで続いている。 この景色を創るために、周りの建物は息を潜めるように灯を落とし、静かに沈み込んでいた。 道の先は細く長く、はるか遠くまで続いているように見えた。 先を歩いていた人達の歩調が弛み、僕たちも光の道をゆっくりと進んだ。 抱き合うように寄り添って歩く恋人たちは、自分たちだけの世界に浸っていて、だから僕たちがそっと手を繋いでも、誰も気が付かないようだった。 「すげえな」 「うん」 僕たちの声も自然と囁き声になる。 どこまでも続くかと思われた道は、案外そうでもなくて、やがて終着点に辿りつく。 緩やかな上り坂を歩いていた僕たちは、その下に広がる広大な光の草原を目撃していた。 道の先、階段を降りたそこはイルミネーションによる庭園だった。低木に網のようにかけられた無数の電球が点滅してる様は、海の底のようにも見えた。 光の海を泳ぐようにしながら、広い庭を散策する。 風が吹くように光が流れ、そこかしこに置いてある小さなオブジェたちが、可愛らしい色を放ちながら顔を出していた。 東屋のような小さな建物がポツリ、ポツリ、と建てられて、光に隠れるようにしてキスをしているカップルを見つけた。 辰郎君と顔を見合わせ、邪魔をしないように静かに離れる。ひとつに気が付いてよく見れば、あっちでもこっちでも寄り添うカップルが顔を寄せ合っていた。 「竹内、連れて来なくてよかったな」 マルガリータを連れてきていたら大騒ぎになっていたことだろう。鴨川観光をあれほど切望していた彼だ。東屋の周りで順番待ちをしたに違いない。 今日の模試に出掛ける相談をしている僕たちに、「何時頃終わるの? 俺、迎えに行こうか?」と、言ってきたマルガリータだった。 終わるのは遅いし、遊べる時間はないよ、と断ったとき、本当にしょんぼりしていた姿を思い出してしまった。ちょっと可哀想だったかな、とも思うんだけど。 あちこちに飾られた、オブジェやツリーを見つけながら歩き、僕たちも空いていたベンチに座った。 たくさんの光に包まれていても、人の姿は夜に溶け込むように暗く、僕たちに注目する人もいない。他のカップルたちと一緒、二つの影はたぶん普通の恋人同士にしか見えないんだろう。 「なんか信じられないよなあ」 明るい声で、だけどやっぱり囁くように、辰郎君が空を見上げた。 「なにが?」 「だってさ。俺らさっきまでプレセンター試験とか受けてたんだぜ?」 「言えてる」 今夢のような風景の中にいる僕たちの現実を思うと、後ろめたいと思うよりも先に、余りにもかけ離れすぎていて、可笑しくなってくる。 「あと一ヶ月だな」 「うん」 「絶対、受かろうぜ」 辰郎君が握手を求めてきて、僕はそれを力強く握った。 「受かりたい」 「受かるの!」 「うん。受かる」 力強く言われて、グ、っと手を握られ、大きく振られた。 遠くの方から賛美歌が聞こえてきた。 庭園の奥にあるステージで、キャンドルナイトが始まったらしい。 澄んだ夜空と光の海に、賛美歌が流れていく。 握手をしていた腕を引っ張られ、辰郎君が近づいてきた。 目を閉じてそれを迎える。 来年のクリスマス、僕たちはどこでキスをするだろうかと考えながら。 |
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