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うさちゃんと辰郎くん
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 日曜の夜の電車は空いていて、僕たちは隣同士で腰掛けて、来たときと同じようにしゃべっていた。
 話題はやっぱり今日受けた試験のことで、それからクラスの誰それが志望校を変えたことや、やっぱりマルガリータが馬鹿なことなんかを、飽きることなくしゃべり続けていた。
 やがて僕の住む駅に電車が到着し、僕たちは立ち上がった。
 僕と一緒に降りてきた辰郎君は、コインロッカーに朝預けた荷物を取りに行った。
 一緒に試験会場に行こうと約束し、朝、辰郎君はここまで迎えにきてくれて、それから荷物をここに預けた。大きすぎる荷物は会場まで持っていくには邪魔にしかならなかったから。
 大きなスポーツバッグには、今日の着替え、それから明日の制服が入っている。もう一つ持っているのは学校指定のスクールバッグだ。
「……なんか手土産とか持ってった方がよくない?」
 珍しく辰郎君が緊張した声を出している。
「なんでよ」
「だってさ……いるんだろ? お父さん」
「そりゃ。日曜だし、夜だし。一応クリスマスだし」
 今日、辰郎君は僕の家に泊まる。
 僕の部屋で一緒に寝て、明日一緒に学校へ行くのだ。
 人参がないと頑張れないと言った辰郎君に僕が用意したご褒美。
 僕から辰郎君へ、そして同時に辰郎君から僕へのクリスマスプレゼントにもなる、今日の夜。
 たぶん……。


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