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うさちゃんと辰郎くん
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 学校のこと、今日の模試のこと、二人で受ける大学のこと、それからもし受かったら一緒に住もうかって話していること。
 そんな話をしながら夕餉が進んでいく。
「本当、いつの間にこんなに仲良くなっちゃったの?」
 一見共通点なんかまるでないような二人を、母さんが今初めて気がついたようにして見つめ、僕たちは顔を見合わせ、照れたように笑うしかなかった。
 ごめんなさい。母さん。父さん。
 ずっと昔から持っていた僕の罪悪感は、今も消えることはなく、こうして平然と両親の前で笑いながらも、ときどきチクリと胸を刺す。
 でも、前ほど悪いことをしているという、うな垂れるような感覚は薄れてきている。
 辰郎君の能天気が僕にも感染っているらしい。
 恋をすることは悪いことじゃないんだよと、隣の人が笑っている。
 それがどんな相手でも、とても幸せなことなのだと、今、僕は思う。
 外に向って大声で叫ぶことは出来ないし、やっぱり知られるのはとても恐い。
 例えば誰かにこの恋を知られることになって、嫌悪や同情や好奇の目に晒されたとき、僕は辰郎君を守ってあげられないかもしれない。
 だけど、僕は僕を守ることはできる。
 傷つくことがあったとしても、このことに関して後ろめたく思ったり、恥ずかしいと思ったりはしたくないなと思う。
 僕が辰郎君のことを守れなくても、彼はとても強いので、自分のことをちゃんと守れる人だと思う。
 だから僕は安心して、自分のこの気持ちを守っていきたい。
 楽しい晩餐の時間は刻々として過ぎ、驚くべき食欲を見せた辰郎君によって、ほとんどの皿が綺麗になった。
 一緒に料理を口にしながらも、パタパタと立ち歩く母さんを手伝って、辰郎君が気軽に皿を運んでいく。
「あら。いいのよ。座ってて。今日は試験頑張ったんだから」
 台所にぬぅっと入っていく辰郎君に母さんが笑っている。
「なんか母さん、声がワントーン高くないか?」
 父さんが台所のほうに首を伸ばし、やっぱり笑っていた。
「ほら、明日学校があるんだから、お風呂入っちゃいなさい」
 さんざん僕たちに食べさせておいて、今度はそんなことを言い、母さんが辰郎君を追い立てる。
 タオルはここ、パンツは持って来た? と、引率の先生のようにテキパキと指示を出す母さんの声と、あう、とか、おぅ、とか返事をしている辰郎君の声が浴室から聞こえた。
「背中流しましょうか、みたいな勢いだな」
 父さんが暢気に笑い、僕は気が気じゃなかった。


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