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うさちゃんと辰郎くん
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 隣では姉ちゃんが派手な音を立てながら着替えをしている気配がする。
 ……本当に。
 なんてタイミングで帰ってくるんだろう。
 っていうか、今日は帰って来ない筈じゃなかったの?
 大学の友達とクリスマスイベントに参加して、そのまま泊まってくるかもって言っていたじゃないか。
「かも」って言ったときは大概実行する姉ちゃんだから、たぶん帰ってこないと思っていたのに。
 これじゃあこの先に進めない。
「……無理そうだな」
 辰郎君も諦めたように小さな声で言った。
 布団の中で裸で抱き合い、お互いに触れ合ったまま、そこから一歩も動けない状態だった。
「……ごめん」
 残念で仕方がない。
 だけど隣に姉ちゃんがいる部屋で、最後まで事に至る勇気はとてもでない。
 隣からは上機嫌な鼻歌まで流れてきた。
「受験が終わって、卒業したら……」
「うん」
「二人で卒業旅行に行こう」
 絶望に浸っている僕に、辰郎君がそんな提案をしてきた。
「旅行?」
「うん。どこ行こうか」
 向かい合って横たわりながら、二人で旅行の相談をする。
「京都、もう一回行きたいな」
「京都か」
 楽しい修学旅行だったけれど、ゆっくりと観光地を巡ったという覚えがない。
「大文字焼きも見たいし、山も登りたかった」
「そうだな。鴨川に二人で行くか。竹内の代わりに」
 そんなことを言って笑い合った。
「他には?」
 今日の駅のホームに貼られていたポスターを思い出し、夢が広がる。
 いろいろなところへ行ってみたい。二人で行くのも楽しいし、大勢で行くのもきっと楽しいだろう。
 なにしろ辰郎君はどこで何をしても、どこに行かなくても何もしなくても、なんでも楽しめる人だから。
「いつか海外にも行ってみたいな」
「そうだね」
「バイトして金貯めてさ。豪華なホテルに泊まんの」
「凄くお金が掛かりそうだね」
「頑張ろう」
 草原のホテルもいいし、海辺の民宿なんかは料理が美味そうだ。大勢でコテージを借りるのも楽しそうだし、テントでキャンプするのもきっと楽しい。 
「卒業旅行はさ……」
 壮大な旅行計画が一周回って、卒業旅行に帰ってくる。
「遠くなくてもいいから、どっか二人で行こう」
「うん」
「そんときに……ちゃんと、しような」
「辰郎君」
 にっこりと笑って、辰郎君が僕の手を引き寄せ、自分の唇に当てた。
「気兼ねしないで、声とか我慢しないで、思う存分やりたいよな!」
 思う存分……やりたい、です。僕も。
 二人でそんな約束をしていると、隣の部屋から姉ちゃんが出てきた。
 階段を降り、今度は浴室に入っていく。
 シャワーの音が聞え、僕たちは顔を見合わせた。
 再びチャンスがやってきた。かもしんない。
 向かい合って横になっている僕の背中を引き寄せて、辰郎君も身体を寄せてきた。
 伸ばした腕でお互いの中心を握り、それを動かす。
「……は、ぁ……」
 すぐに息が上がってきて、僕は辰郎君の胸に顔を埋めた。
「……うさちゃん」
 呼ばれて顔を上げ、キスをする。腕枕をされたような格好で、辰郎君が少しだけ身体を起こし、その胸に抱かれるように身体を密着させた。
 姉ちゃんの登場で治まっていた熱は、また高まって、固く、濡れていく。
「……っ、ぁ、ぁ……」
 キスが離れると、声が漏れ、また塞がれた。
 シャワーが床を打つ音が止み、浴槽に入っている気配がする。
 頭まで布団を被り、隠れるようにしてお互いを触り合った。
 辰郎君の大きな手が、僕の中心を握っている。ゆっくりと擦りながら、ときどき指の腹でつぅ、と撫でられ、先端を親指が掠める。
「……あ、ん」
 思わず顎が上がり、喘ぐ僕を、辰郎君が笑って見つめ、開いている口の端っこをペロペロと舌で撫でてきた。
 辰郎君の動きを真似て、僕も辰郎君のLサイズを可愛がる。
 これって……本当にLサイズなのかな。なんかすごく大きいんだけど。だって僕の指が廻らないもの。
 ……痛そう。大丈夫かな、僕。
 苦しそうに、気持ちよさそうに眉を寄せている辰郎君の表情を眺めながら、そんなことを思った。



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