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うさちゃんと辰郎くん
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 去年と同じ神社に向って二人して歩いて行く。
 去年は誘われたのが嬉しくて嬉しくて、ピョンピョン跳ねながら歩いていた。
 今年もやっぱり嬉しくて、跳ねるように歩いている。
 だけど嬉しさの種類が去年とは違っているのが不思議だった。
 僕が隣の辰郎君を見上げると、同じタイミングで辰郎君も僕を見る。
 二人でいることが自然になり、僕の視線の先には必ず辰郎君の笑顔があった。どこに行くにも、何をするにも二人一緒で、まあ、マルガリータがお約束のようにいたけれども、でも、こんなふうにいられるようになるなんて、去年、この道を歩いているときには考えもしなかった。
 辰郎君のうっかりミスと、僕の浮かれた勘違いから始まった去年の今日の初詣で、僕たちの関係が変わった。
 不思議だと思う気持ちと、感謝の気持ちで、僕の頬は自然に弛み、それを見ていた辰郎君の笑顔も深くなった。
「あっちの道」
 辰郎君が二股に分れた道の向こうを指をさした。
「うさちゃん、すごい勢いで逃げてった」
 駅へと続く暗い道。恥ずかしさで泣きそうになりながら全力疾走した道だ。
「自転車借りて、追いかけたんだよな」
 懐かしそうに、楽しそうに辰郎君が言う。
「すげえ早ぇの。びっくりした」
 あのときは本当、心臓が止まってもいいくらいの走りだった。
 あのときのことを思い出すと、今でも叫びたくなるくらいに恥ずかしい。その他にも僕はいつも恥ずかしい姿を辰郎君に見られているのだった。
「何か、不思議だな」
 分かれ道から僕の方へと視線を戻した辰郎君が、いつものようにわはん、と笑った。
 辰郎君も僕と同じことを考えていたらしい。
「でもよかった、俺。メアド間違えて。な」
 そしてやっぱりこの勘違いな偶然に感謝しているらしいことが、嬉しかった。
 去年の今日、自転車の後ろに乗せられて、冷たくなった手をポケットに入れてもらった。
 今、僕の手は去年と同じようにやっぱり辰郎君に握られて、彼のポケットの中にお邪魔している。
 夜の道は暗くて寒い。
 吐く息は白く、だけどとても温かい。
 除夜の鐘と共に、神社からはカウントダウンが聴こえてきた。
 ポケットの中の手を引っ張られて、暗がりに連れて行かれる。
 歓声とおめでとうの声を聴きながら、辰郎君にキスをする。
 今年もよろしく。
 お互いにそう言って、僕と辰郎君は新年二度目のキスをした。


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