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うさちゃんと辰郎くん
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 電車が次の駅の名を告げ、僕たちは降りる準備をした。
 相変わらず広がり放題のお菓子を片付け、ゴミを纏め、鞄を担ぐ。
 ドアが開くと同時にマルガリータがピョン、と元気よくホームに飛び降りて、そのあとにぞろぞろと続いた。
「はあー、夢の旅行も終わっちゃったか」
 伸びをしながらマルガリータが叫び、出ていく電車をみんなで見送った。
 高校生最後の春休み。
 クラスメートと行ってきた卒業旅行。
 修学旅行で一緒のチームになった五人で、もう一度京都へ行ってきた帰りだった。
 五人のうち三人はそのまま付属の大学へ進学する。
 そして僕と辰郎君は二人で国立の大学へ進む。
「これから引っ越しの準備か?」
「うん」
「遊びに行くからな」
 マルガリータが気軽に僕の肩を叩き、「それはどうだろう」と僕は答えた。
「えー! ちょっと、つれないこと言わないでよ。俺たちの仲じゃないかあっ」
「たいした仲じゃありません」
 マルガリータのこの軽口もこれで最後かと思うと、ちょっと寂しいような気もする僕だった。
「どうする? まだ早いし。どっかで茶でもしばきにいく?」
 旅行の余韻でまだ遊び足りないのか、マルガリータが誘ってくる。
「あ、ごめん。僕は」
「そうか。これから家族でそのままどっか行くんだっけ」
「うん」
「大変だな」
 マルガリータが名残惜しそうに辰郎は? って聞いてくる。
「あー、俺もごめん。バスケ部の集まりがあるんだ」
「そっかあ。ま、まだ休みはあるし。そのうち集まろうな」
 そんな言葉で僕たちの卒業旅行は締めくくられ、その場で解散となった。
 別れといっても、地元からそう離れた場所に行くわけでもなかったし、僕たち以外の三人は大学でも顔を合わせる。寂しさよりも、これから始まる新生活に向けての期待の方が大きくて、あっさりしたものとなった。
 バイバイと手を振って、全員がバラバラに別れる。
 新幹線のホームを降り、迷路のような駅構内を進み、自分の乗るホームへとまた上っていった。
 電車はすでに来ていて、迷わずそこに乗り込む。
 ポケットから出した切符で座席を確かめながら車両を歩き、目指す席を見つけるとそこで足を止めた。
 先に席に座っていた客が僕を見上げた。
「よう。奇遇ですね」
 悪戯っぽく笑っている辰郎君に、僕も「あれ、本当だ。偶然ですね」と返事をして、隣に腰を降ろした。
 発車のベルが鳴り、時間通りに電車が動き出す。
 僕たちの、二人っきりの卒業旅行が始まった。


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