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うさちゃんと辰郎くん
8

 幸せの余韻を楽しみながら、しばらく川辺に佇んでいた。
 両手で包んだペットボトルはすでに僕の手のひらによって温かくなっている。
 自分の水なんだからと思っても、なんとなく周りをキョロキョロと見回して、誰も見ていないことを確認し、そっと口を近づけた。
 ……いざ。
「おおーい! 委員長」
 でっかい声にビクゥッ、と飛び上がり、危うくお宝の水を取りこぼしそうになるのを必至に押しとどめて振り返ると、土手にクラスメートが立っていた。こっちに手を振っている。
「……マルガリータ」
 丸刈りの竹内君だった。
 ひょうきん者の竹内君は、クラスのムードメーカー的な存在で、常に時代の先端を先駆ける! という使命感のもと、冬休み明けに何を思ったか髪を金髪に染めて登校し、そのまま職員室に連れて行かれ、丸刈りにされて教室に戻ってきた。
 以来、マルガリータと呼ばれている。
 僕が行くのを待っているのか、ずっと手を振っているから、仕方なく両手でペットボトルを握りしめたまま、マルガリータのいるところまでのぼっていった。
「なにしてたの?」
 僕が彼の側まで辿り着くと、当然のように一緒に歩き出し、聞いてくる。
「ミジンコ見てた」
 ペットボトルから目を離さないまま答えると、マルガリータは戯けて「ミジンコ? こういうやつ?」と、手を動かしてまたミジンコの真似をした。
 あんまり可愛いとは思えなかった。
「今日寒いからな。クリオネもいた?」
「いるわけないじゃないか。馬鹿じゃないの?」
 マルガリータのふざけたセリフを鼻で笑ってやった。
 そして、油断した次の瞬間。
「あ、いいもん持ってる。それちょーだい」
 あっ、と思う間もなく僕の手からボトルを奪い取ると、マルガリータが僕の大事な命の水を飲み干してしまった。
「あぁああああっ!」
 驚愕の表情で見つめる僕の手に、空になったボトルを返し「ごちそーさん」と言ったのだった。
「なんてことを……」
「あれ? ごめん。全部飲んじゃった。あとで返すよ」
 愕然とする僕にマルガリータは笑っている。
「え? え? 喉渇いてた? 学校着いたら買ってやるから。なっ? 水じゃなくてもいいよ? お高いものでもOKだ」
 僕のあまりの落胆振りに、マルガリータはそんなことを言って僕の機嫌を取ってきた。
「フルーツ牛乳? 奮発してやるよ。今日だけだぞ?」
 そんなものっ!
 辰郎君の唇はプライスレスなのにっ!
 今日の彼のこの仕打ちを、僕は一生忘れることはないだろう。


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