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月を見上げている
18

 樹は自分の着ていたものを最後まで脱がなかった。大輔が触れようとするのを、いいからと、やんわりと拒絶した。それでいて、気が遠くなりそうな程の快感を、指で、唇で、舌で与えてきた。耐え切れなくて漏らした、呻くような声を聞くと嬉しそうに目を細めてさらに攻め立ててくる。樹は声を出さなかった。
 興奮しきって勃ち上がっていた大輔自身を口に含まれた時は、思わず樹の髪を掴んだ。大輔の手に掴まれたまま、その頭はゆっくりと上下される。ねっとりと絡まれる舌の動きに腰が震えた。自分にも同じ物があるのだから、どうすれば男が喜ぶのか分かりすぎるほど分かっているのだろう、樹の愛撫は的確に大輔を昂めていく。
 爆発しそうになって、慌てて引き剥がそうとしたが、離れない。
「ちょ……と、待て。ギブ、ギブ!」
 このまま自分だけ陥落させられるのに耐えられなくて、必死に訴えた。
 大輔の懇願にようやく身を起こして、見下ろされたその目は、大輔以上に昂ぶっていて、妖しく揺れていた。濡れた口元の少し開いている隙間から、赤い舌が覗いている。酷く淫靡で美しいその表情に釘付けになる。ゆっくりと樹の指がその唇に差し込まれ、ねぶられている。
 見せつけるように濡らされている指が羨ましくて、自分もそうされたくて、無意識に樹の口元へ手を差し出す。樹は微笑むと、大輔の望んだ通り、その指を含んでくれた。たっぷりと濡らされた樹自身の指は後ろへ廻っていく。代わりに大輔の指を愛おしむように、掌や指の一本一本に口づけをして愛撫する。
「……あぁ……」
 優しく吸われ、舌を絡められて、まるで大輔自身の劣情を銜えられたような錯覚に陥って、思わず声が漏れた。
 樹の口元と別の場所からも水音が聞こえてきて、閉じていた目を薄く開けた。見上げると、樹の眉が苦しそうに寄せられている。
「……久島?」
 名前を呼ばれて、樹はゆっくりと大輔の胸もとへ降りてきた。
「……女と違……って、勝手に……濡れないから……それに、久しぶりだし……」
 経験のない大輔にも、樹が大輔を受け入れる準備をしているのがわかった。何もかも一人でしようとしているのだ。
「ちょっと……待ってて……待てる?」「ああ……なあ」
 手伝おうか? っていうのも変だよな。
「キスしたら……駄目か?」
「……今、忙しい」
 そんな憎まれ口をききながらも、空いたほうの手で大輔のモノを萎えないように撫で擦っている。
 やがて跨ったままの体勢で、樹の手に握られていた大輔の劣情が樹のそこにあてがわれた。ゆっくりと腰を落としながら少しずつ迎え入れていく。はじめ抵抗のあった入り口付近を過ぎると、体重に任せて呑み込まれていく。大輔は樹の決して柔らかくはない、それでも自分よりは華奢な腰に手を添えて動きを助けた。
 思っていたよりもずっとスムースに収まることができた。深く繋がって、どちらからともなく溜息が漏れる。樹の額には汗が滲んでいた。しばらく動かずにそのままでいた。
 樹の中は、狭くて、それでも柔らかくて、とても熱かった。じっとしていると、中がひくひくと蠢いて、それに応えるように大輔の屹立もビクンと反応する。樹の背中が反り返り、白い喉もとが目の前にさらされる。やわやわと締め付けられる感覚に腰が自然と揺れた。
 しばらく目を閉じて静かな官能に身をゆだねていた樹だったが、ふっと微笑んで小さく呟いた。
「……大丈夫そうだね」
 何が? 快感に朦朧となった頭で問い返す。
 久しぶりだと言っていた己の体のことなのか、男の体に呑み込まれても尚、萎えない大輔自身のことなのか。
「……どう?……俺の中、気持ちいい?」
 優しく問われて「ああ」と溜息混じりに答える。
「病み付きになりそうだ」
 本当だった。
 うっそりと笑って、樹は体を折ってきた。耳朶を甘噛みされてまた溜息が出る。
「……それは困ったな」
 甘い声が耳の奥に響いて、体のもっと深い部分にまで浸入してくるようだ。堪らなくなって、樹の腰に添えてある腕に力を込める。
「……動くよ……いい?」
 返事を返せばきっとあられもない喘ぎ声になりそうで、ぐっと喉に力を入れたまま、コクコクと頷くことしかできなかった。
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