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続・月を見上げている |
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翌日も晴天だった。 札幌市内でレンタカーを調達して、ドライブをしながら、予約した宿まで走る 一泊だけの滞在に、母親は少し不満そうだったが、もともと淡白な息子に諦め顔だった。友達と小旅行をしてから帰ると告げると、今度は彼女を連れて来なさいよと、軽く笑われて、気弱な笑顔を返すことしかできなかった。 ゴールデンウィーク中で、車が多いことに驚いたが、それでも都心に慣れてしまった今は、渋滞なく走るまっすぐな道が心地よかった。 樹はもちろん地元だし、大輔も北海道はもう何度も来ている。観光名所へ寄ることもなく、適当に車を走らせては休憩して、景色を楽しんだり、昔家族で寄った店に連れて行ったり、食事をしたりした。 どこへ行っても楽しかった。お互いの旅行の体験談をし、あそこが旨かった、ここが綺麗だった、あの公園で転んだなどと、樹は自分でも吃驚するほどよくしゃべった。いつもは茶々をいれるのを忘れない大輔だったが、今は大人しく樹の話を聞きながら、ハンドルを握っていた。 「疲れない? 運転変わろうか?」 いつもより幾分口数の少ない大輔に助手席から声を掛ける。 「いや、こんな風に思いっきり走れるのはめったにないからな。楽しいぜ」 「ならいいけど」 「お前こそ、あちこち移動して疲れたんじゃないか?」 視線を前にむけたまま大輔が言った。 「全然。昨日もぐっすり眠れたし」 「そうか、眠れたか」 声の底に安堵が見える。心配していたのだろうか。 「なんだ、そっちは眠れなかったの?」 「そりゃ、お前、電話であんな声聞いちまったら、寝るどころの騒ぎじゃないだろ」 憮然として、昨日の樹の煽ったような会話を持ち出す。 「何の話だ?」 「お前なあ」 心底弱ったような声を出されて、にやついてしまうが、聞こえなかった振りをして「次どこ廻ろうか」と聞いてみる。 「もうこのまままっすぐに宿へ行く」 「もう?」 「そう、もう」 チェックインは三時のはずだから、このまま行けば、それぐらいの時間にはなるだろう。でも、宿に着く前にあちこちドライブしようと言ったのは大輔だ。その予定で夕飯は宿で取らずに、朝食だけの予約になっている。 「昨日はそのつもりだったが、気が変わった」 変わった原因は、たぶん、いや絶対に樹の昨日の電話だ。 「本当は今すぐにでも、その辺に車止めて、やっちまいたいところだが」 相変わらず言葉を飾ることをしない。 「……獣なみだな」 とりあえず切り返す。 「おうよ。今ならヒグマにも勝てそうだぜ」 「素手で鮭を獲れそうだ」 ザブザブと川に入って、鮭を飛ばしている大輔を想像して笑った。 「でも、そんなんじゃ、駄目なんだろ?」 何が? と聞きかけて、意味を悟ってかぁっと顔が熱くなる。 「言っている意味が分からない」 助手席に深く腰掛けて、窓の外に向けた顔を見られないようにした。 「そうか。後で教えてやる」 楽しそうだ。昨日の仕返しをされている。悔しさに唇を噛んだが、その先のことを考えると、もう言い返すことも出来なくなった。 |
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