INDEX
続・月を見上げている

 ぱさりと、タオルが床に落ちた。
 逞しい腰に腕を廻してきつく抱きしめる。そそり立った大輔の欲望に頬擦りをして、唇を寄せた。
「……樹……」
 溜息と共に、愛しい人の、自分を呼ぶ声が堪らない。一度顔を上げて見つめ返すと、わずかに眉を寄せて押し寄せる快感に静かに耐える顔が写った。
 首を伸ばして骨ばった腰の筋に吸い付く。僅かに窪んだその場所が樹のお気に入りだった。紅い花びらが一片散る。忘れないでと残した刻印。憶えてくれているだろうか。
 優しく添えられていた大輔の手に力が籠る。ゆっくりと導かれるのに抗わずに従って、大輔の欲望を口に含んだ。猫のようにぴちゃぴちゃと音をたてて、先端に舌を這わせる。透明な汁が滲んできて、それを広げるようにして唇を滑らす。腰に廻していた腕を待ってきて、完全に立ち上がった屹立を緩く握って上下に擦る。
 敏感な裏の筋に沿って舐め上げると、ヒクン、と跳ねた。
「……ん……あぁ……」
 恋人の漏らす声が色っぽい。嬉しくなってチュッとキスをして、そのまま口に含む。わざと浅いところで留まったままクチュクチュと唇と舌で先端を愛撫した。
 もっと奥へと促すように、樹の髪を包んでいた手がゆっくりと動き出した。その動きに素直に従って、今度は口を大きく開けて、口腔の奥まで招き入れる。
 大輔のペニスは大きくて、まで咥えると苦しくて、涙が滲んだが、それでも止めたくなかった。
 苦しいのに……気持ちがいい。
「ん……ん……」
 頭を動かしながら、自然と声が漏れる。快感を与えているのは自分の筈なのに、それ以上に感じてしまう。触れられていない樹の中心が上を向いて、溢れ出た蜜が滴り落ち、樹自身を濡らしていく。それが刺激になって快感が増す。自然と揺れる腰がいやらしく動いているのが、月に照らされた影となって部屋に映し出された。
 ふいに、強い力で髪を引かれて、強引に上を向かされた。虚ろな目に映った大輔の顔は、快感に耐えるように微かに歪められていて、それがとても綺麗で、色っぽかった。
「いや……いやだ……もっと……ほし……」
 うわ言のように呟いて、もっと、もっとと懇願する。動かし続ける手を止めないまま、もう一度口づけようと、唇が触れた瞬間――大輔の欲望が弾けた。
「……あ、あぁ……」
 極まりの声を上げたのは、樹のほうだった。
 大輔の精を顔に受けて、そのまま口に含んで口腔に受け止めようとする。こくっと喉を鳴らして飲み込んだ。受け止め切れなかった白濁が口元から溢れて顎を伝う。
「樹……」
 名前を呼ばれて顔を上げる。優しく頬を挟まれて、流れ落ちたものを指で拭われると、官能の波が押し寄せてきて――樹はそのまま達してしまった。
「んっ、あぁ……あぁ、あぁ……」
 信じられない。男の腰に縋りつき、口淫を施しながら、自身が感じて、触れられてもいないのにイってしまった。快感に溺れる顔を見つめられたまま、それすらも新たな快感を呼び込む。
 体に力が入らない。支えられていなければその場に崩れ落ちそうだった。
「立てるか?」
 優しく聞かれて手を引かれたが、虚脱した体は動かなかった。
 背中と膝裏に腕を廻されて体が浮く。抱き上げられた格好で、ベッドに連れて行かれて、横たえさせられた。
 逞しい体が覆いかぶさってきた。キスを受け止めると、それだけなのに体が反応する。
「……ん」
 大きな優しい手が体の上を滑る。何処を触られても感じてしまう。樹の意思と関係なくビクビクと跳ねて反応するのが、恥ずかしくて、気持ちいい。
「俺……」
「ん?」
「なんか……変だ……」
「……俺は楽しいぞ」
 指の先が軽く首筋を辿る。
「あっ…んっ」
 女のような甘えた声が出て体が跳ねる。
「すげえ……楽しい」
 抱き起こされて、後ろ向きにされた。
「手をついて」
 膝立ちになって壁に手をつく。後ろから抱かれて背中にキスを受ける。感電したみたいに震えながら仰け反ると、前に廻された指で胸の突起を弾かれた。
「あっ、あっ」
 一度果てた筈なのに、樹のペニスは充分に勃ち上がり、上を向いている。大輔のモノも同じようにして、樹の背中に当たっていた。
 胸を弄っていた指が口元へやってきて中へ入れろと唇を割った。二本の指を咥えて、たっぷり唾液を絡ませる。
 この指が次に何処へ行くのかを知っていた。新しくもたらされる快感の期待に頭の芯が熱くなった
 やがて、充分に濡らされた指が樹の後ろへ廻される。ぐるりと一度確かめるように撫でられた後、中指が入ってきた。
「んっ」
 決して急がずに、ゆっくりと馴らされる。
 くちゅくちゅといやらしい水音が部屋に響く。
 二本目が足されて抜き差しを繰り返しながら広げられていく。
 樹の敏感な部分に触れてきて擦り上げられた。
「ああっ」
 そこに触れられると、否応なく腰が揺れてしまう。それでも少し擦っただけでまたはぐらかされた。
「あ……んぅ……」
 ここまで来て焦らすつもりかと、恨みがましい声が出る。もっととせがむように腰を突き出す姿が恥ずかしかったが、止められない。
 両の尻を撫で回していた手が、ふいに左右に割られたかと思うと、狭間に柔らかいものが差し込まれた。
「ひぅっ」
 あり得ない感触に悲鳴が上がった。
「やっ、やっ……それっ……やだっ」
 必死に懇願しても許してもらえない。ぬめぬめと、柔らかくて、熱い舌が樹の中を蹂躙している。眩暈のするような快感に首を振りながら耐えた。涙が零れ落ちる。
「もう……大輔……許して……」
 これ以上されたら狂ってしまう。壁に取り縋って泣きながら訴えた。
 ようやく解放されて、力が抜けたと思ったら、すぐさま熱い肉塊が宛がわれて、そのまま貫かれた。
「ああっ!」
 耐え切れず崩れ落ちそうになるのを、両手で引き上げられて壁に押し付けられる。
 乱暴に揺さぶられて、それなのに痺れるような快感が湧き上がってくる。ふっ、ふっ、と大輔の吐くと息が耳に掛かる。
「あっ、あっ、いっ、いくっ、いくっ、いかせっ、てっ」
 従わされることに慣れきった体で、許しを乞う。
 許されなければイケない。それほど樹は身も心も大輔のものだ。返事の代わりに耳を噛まれた。吐息を吹き込まれるのと一緒に「イけよ」と囁かれた。
「んあ、あぁっ、あぁっ、あぁああっ」
 自分がどんな声を発したかも分からなかった。弓なりに撓る体を支えられて、精を吐く。
 激しく突き上げられながら、一度も樹自身に触れられないまま、二度目の絶頂を迎えてしまったことに戸惑った。それどころか、繰り返される抽挿に、すぐにもまた絶頂感が込み上げてくるのだ。
「あぁ、う、う……そだ……ろ……」
 続けざまに押し寄せる官能に恐ろしさすら覚える。このままどこまでいってしまうのか、自分自身判らない怖さだ。
「あ……大輔……あぁ、もう、いやだ……」
 繋がったまま体を返されて仰向けに寝かされた。
 今度はゆっくりと宥めるような動きに、少しだけ安心して大輔の背中に腕を廻した。それでも大きく円を描くようにされて、再び官能の波に流されそうになる。
「また……イきたい……か?」
 問われて小さく頷く。涙が流れる。
「あぁ……ぁ……こ……わい……」
「大丈夫だ……ほら……」
 再び激しくなっていく動きに、もう抗えなかった。
「あ、あぁ、あぁあっ」
 手放しそうになる意識を、指に力を込めて大輔の背中にとりつくことで、必死に繋ぎとめようとした。
「……しっかり、つかまって……いろ……」
 聞こえてくる大輔の声も、絶頂の予感に上擦って掠れている。
 やがて、真っ白になる瞬間がやって来て、抵抗を止めた。
 すべてに身を委ねて流されていく。
 吐息と共に、大輔の精が樹の中で迸るのを感じて、また体を震わせる。大輔が耳元で何か言った。返事をしたが、自分が何を言ったのか分からなかった。終わりのない快楽の波に揉まれながら、樹はゆっくりと、意識を手放していった。


novellist